閑話2
Side:?????
王城、執務室の奥。
――存在を知る者すら限られた密室。
灯りはない。
それでも部屋は、淡く照らされていた。
中央に置かれた水晶が、
内側からぼんやりと光を放っている。
その前に、黒衣の神官が二人。
一人が、わずかに眉をひそめた。
「……ほう」
水晶の表面が、ゆらりと波打つ。
「賢者の加護が……消えたな」
低い声が、静寂に溶ける。
もう一人が、水晶を覗き込みながら言った。
「消えた、ではない。
……断たれている」
その言葉と同時に、
水晶の光が脈打つ。
淡い光の中に、座標のようなものが浮かび上がった。
「王都の外……森の中か」
「邪神の手先、か?」
「いや……妙だ」
わずかな間。
次の瞬間――
水晶が、強く脈動した。
「……聖女もだ」
「聖騎士も」
「……同時、か」
二人の間に、沈黙が落ちる。
だがそれは、“困惑”ではない。
――観察だ。
「偶然ではないな」
「うむ。
意図的に“断っている”」
「となると……」
一人の神官が、わずかに口元を歪めた。
「面白いものが動いておる」
「王国の兵ではあるまい。
この規模を断てる者など……」
「カイトリア様の障害となり得る存在、か」
静かに結論が落ちる。
「……放置はできんな」
もう一人が頷いた。
「どちらかが出向くべきだな」
「ならば――」
先に口を開いた神官の身体が、
ぐにゃり、と歪んだ。
骨格が軋み、
肉が波打ち、
影が膨れ上がる。
やがて――
そこに立っていたのは、人ではない。
黒い狼。
闇をそのまま形にしたような毛並み。
赤く光る双眸だけが、
生き物としての“輪郭”を辛うじて保っている。
だがその眼には、
獣のそれとは異なる――
冷たい知性が宿っていた。
「位置は把握している。
わしが行こう」
もう一人の神官は、静かに頷く。
「カイトリア様の眷属であれば、遅れは取るまい」
「うむ」
黒狼は、ゆっくりと振り返る。
「……“断つ者”か。
どの程度のものか、見せてもらおう」
次の瞬間。
床を蹴った。
窓枠を踏み砕き、
闇を裂くように外へ飛び出す。
屋根を駆ける音は、ほとんどしない。
黒い影が、王城を越え――
そのまま森の方角へ消えていった。
残された神官は、水晶へと視線を戻す。
「……さて」
細く、笑う。
「王は眠り、民は従う。
あとは、勇者が器として完成すればよい」
水晶の光が、ゆらりと歪んだ。
「それまでに潰せるか――」
低く、呟く。
「あるいは……」
わずかに間を置き、
「試練として使うか」
密室に、再び静寂が戻る。
だがそれは、
先ほどまでの静けさとは違う。
“何かが動き出した”あとの、静寂だった。
Side:修一
リュミナの膝枕は、正直めちゃくちゃ気持ちよかった。
だが――
ここで気を抜いている場合じゃない。
体の重さは、だいぶ抜けてきている。
ゆっくりと上体を起こし、
リュミナの頭を軽く撫でた。
「ありがとな。だいぶ楽になった」
リュミナは嬉しそうに、
そのまま腕にぎゅっと抱きついてくる。
にこにこと、満面の笑み。
(……可愛いな)
一瞬、気が緩みそうになるが――
すぐに意識を引き締める。
(さっきの“違和感”…気のせいじゃない)
立ち上がり、周囲を見渡す。
「お待たせ。行こう」
ロウガが短く応じる。
「おう」
ライルも頷く。
「行くか」
――この時、まだ誰も気づいていなかった。
“こちらに向かってくる存在”に。




