巫女は彼のお嫁さんになりたい
side:リュミナ
私は、リュミナフィア・ドラグニア。
親しい人からは、ただ“リュミナ”って呼ばれている。
龍人族の姫で、ルミナス様の巫女(見習い)。
年齢は四十歳──でも、龍人は五十歳で成人だから、
私はまだ子どもみたいなもの。
母様のことは、あまり覚えていない。
私が十歳の時、
母様──先代のルミナス様の巫女は、殺された。
その日から、
私は巫女を継いだ。
でも──
巫女といっても、
ルミナス様とおしゃべりするくらいで、
修行らしい修行は、何もしていなかった。
ルミナス様も、
「大人になったら修行だよ」
そう言ってくれていたから、
私はずっと、安心していられた。
だけど──半月ほど前。
ルミナス様にお花を届けようと思って、
護衛の騎士たちと、侍女のカレンナを連れて外に出たとき。
賊に、襲われた。
騎士たちは必死に戦ってくれた。
でも、数が多すぎて──
馬車は、すぐに囲まれそうになった。
そのとき、カレンナが言った。
「リュミナお嬢様。このままでは追いつかれます。
私がおとりになりますので、服を交換して逃げてください」
私は、嫌で首を振った。
でもカレンナは、
涙をこらえた顔で、叫んだ。
「お嬢様、早く!」
そして──
自分のメイド服を脱いで、
私に着せてくれた。
「囲まれる前に止めて!
お嬢様は反対側から森へ!」
そう言って、
賊のいる方へ走っていった。
私は──
カレンナの言う通りにするしかなかった。
森の中を、必死に走った。
息が苦しくて、足が痛くて、
それでも止まれなくて──
やっと街道に出たとき、
馬車が見えた。
助けてもらえると思った。
でも──
その人たちは、賊と同じだった。
眠り薬を飲まされて、
そのまま連れていかれた。
目が覚めたとき。
私は、ロープで縛られて、
知らない馬車の中にいた。
四日ほど進んだあと、
外に引きずり出されて──
柱に繋がれて、
酔った男に斬りかかられた。
怖くて、寒くて、
もう……終わりだと思った。
その瞬間──
シュウイチが、来てくれた。
あの時のことは、
今でも、はっきり覚えている。
怖くて、壊れそうだった私を抱きしめた、
あの腕のぬくもり。
それは──
ルミナス様と同じくらい、
あたたかかった。
だから分かったの。
(この人は、きっと……特別な人だ)
それから──
何度も助けてくれて、
一緒に逃げてくれて、
ドラグニアまで、連れて帰ってくれて。
そして今──
カレンナまで、助けてくれた。
だから私は、ルミナス様にお願いした。
「私は……シュウイチのお嫁さんになりたいです」
ルミナス様は、少しだけ考えてから──
優しく笑った。
「まあ、修一の寿命を伸ばせばいいだけだしな。
可愛いリュミナの願いだ、叶えてやろう」
そして、少しだけ真面目な顔になって続けた。
「ただし──巫女としての修行はちゃんとやること。
もう、巫女を失うのは見たくないからね」
その言葉を聞いたとき、
胸がぎゅっとなった。
ルミナス様は、
どこか母様みたいで──
私は、ルミナス様が大好き。
そして。
龍人は長命だ。
大人になってからも、ずっと、ずっと長く生きる。
それでも私は思った。
それでもいい。
シュウイチと一緒にいたい。
シュウイチのことも──
私は、
大好き。




