おまけの俺、誰にも気づかれず少女を救い出す
《遮断の外套》を発動する。
ふっ──と空気が揺れ、
自分の存在が“薄く”なる。
(……これ、本当に“神を欺く”レベルだな)
陣地に近づいても、誰も反応しない。
そのまま中に入り──
歩いても、走っても、視線すら向けられない。
(……楽勝すぎる)
警備はある。
見張りもいる。
だが──
“俺が見えていない”。
それだけで、すべてが無意味になる。
檻が見えた。
中には──
竜人の少女、カレンナ。
ぼろぼろの姿で、力なく座り込んでいる。
見張りはいない。
(不用心だな……いや、油断か)
どちらにせよ好都合だ。
俺は檻の前に立ち、小さく声をかける。
「カレンナか?
リュミナからの依頼で助けに来た」
カレンナがはっと顔を上げる。
よろめきながら近づいてきた。
「……リュミナ様は……?」
「無事だ。もう城に戻ってる」
その言葉を聞いた瞬間、
カレンナの肩から力が抜けた。
「……よかった……」
「今度は君の番だ。静かにしてくれ」
俺は影に意識を沈める。
──影移動。
一瞬で檻の中へ。
そのままカレンナを抱き上げ、
再び影へ潜る。
次の瞬間──
檻の外に立っていた。
(……本当に、何でもありだなこれ)
「このまま出る。声は出さないでくれ」
「……はい」
そのまま陣地を抜ける。
誰一人として気づかない。
誰一人として、振り返らない。
(……終わりか)
あまりにもあっさりと。
あまりにも静かに。
救出は完了した。
ロウガたちのもとへ戻ると、
すぐに頷きが返ってきた。
「よし、撤収だ」
「途中まで馬車が来ている。街道沿いを走るぞ」
「了解」
(……ルミナス様の加護、強すぎるな)
森を駆ける。
だが──
カレンナの身体は、想像以上に酷かった。
傷だらけ。
血の跡。
拷問の痕。
(……よく、生きていてくれた)
俺たちは交代で背負いながら進む。
夜明け前、森の中で一度休憩を取った。
そっと地面に寝かせると──
カレンナはそのまま、糸が切れたように眠りに落ちた。
(……限界だったんだな)
胸の奥から、怒りが込み上げてくる。
(絶対に許さない)
(あんな目に遭わせた奴ら……必ず)
拳を握る。
だが──今は違う。
最優先は、彼女を無事に送り届けることだ。
俺たちは仮眠を取り、夕方に再び出発した。
しばらく進むと、
先行していたシロガネが戻ってくる。
「コマチの馬車、見つけたぞ!」
案内されて向かうと、
コマチが手を振っていた。
「お待たせ!準備できてるよ!」
「助かる」
カレンナを馬車に乗せ、
毛布で丁寧に包む。
「交代で抱えていくか?」
そう言った瞬間──
ロウガが即答した。
「無理だな。お前がやれ」
「……はいはい」
(まあ、確かに似合わないか)
結局、俺が抱いたまま馬車に乗り込むことになった。
馬車はすぐに走り出す。
目指すは──ルミナス神殿。
(リュミナ……もうすぐだ)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
カレンナを抱えたまま、
ふと意識が揺らぐ。
(……少しだけ……)
そのまま、眠りに落ちた。
目を開けると──
馬車は止まっていた。
そして。
腕の中にいたはずのカレンナが、いない。
「……え?」
顔を上げた瞬間。
目の前にいたのは──
頬をぷくっと膨らませたリュミナだった。
「シュウイチ!」
完全に怒っている。
「カレンナをずーっと抱きしめてたってホント!?
私だってそんなことされたことないのに!」
(……あ、やばい)
後ろを見ると、
元気を取り戻したカレンナが申し訳なさそうに立っていた。
「カレンナ、大丈夫なのか?」
俺が聞くと、リュミナが代わりに答える。
「もう大丈夫!
ルミナス様が治してくれた!」
(……さすが神様)
だが、リュミナの視線は鋭いまま。
じーっと俺を見つめる。
「……で?」
一歩、近づいてくる。
「シュウイチ、カレンナの方がいいの?」
(完全に拗ねてる)
「違う違う。カレンナは本当に危なかったんだ。
守るために抱いてただけで──」
「……ほんと?」
耳がぴくっと動く。
「リュミナがいらないなんて、あるわけないだろ」
一瞬、沈黙。
そして──
「じゃあ」
リュミナは勢いよく飛び込んできた。
「私も、ぎゅってして」
(……これは断れないな)
俺はそっと腕を回し、
リュミナを抱きしめた。
小さな身体。
温かい体温。
リュミナは安心したように目を細める。
「……やっぱり、シュウイチがいい」
その一言が、胸にじんわりと染みた。




