おまけの俺、神の前に立つ
朝、目が覚めた瞬間──
「おはようございます、シュウイチ様」
耳元で声がして、思わず飛び起きた。
振り向くと、
昨日のメイドがにこにこと立っている。
「お、おはようございます……
……いつからそこに?」
「えっ? えーっと……ついさっきです」
(絶対ウソだろ……)
人族である俺の“監視”なのかもしれないが、
それにしても堂々としすぎている。
「着替えるので、外に出てもらえますか?」
「嫌です。お手伝いします」
(“嫌です”って何……?)
もういないものとして扱うしかない。
服を脱ぎ始めると、
メイドは手際よく服を広げ、着やすいように整えて渡してくる。
(……これ、慣れたらダメなやつだよな)
(いや、でも普通に助かるんだよな……)
複雑な気分のまま、結局世話になってしまった。
「……ありがとう。
この後はどうすればいい?」
「朝食の準備が整っております。ご案内いたします」
扉を開けられ、素直についていく。
食堂に入ると、
すでにガルド辺境伯とリュミナが席についていた。
「おはようございます」
「おはよう。よく眠れたかね」
「シュウイチ、おはよう!」
「よく眠れました。ありがとうございます」
ガルドが手を広げる。
「さぁ、席に着き給え。朝食を始めよう」
席に着くと、
温かなスープの香りがふわりと漂った。
食事が始まってすぐ、
ガルドがぽつりと呟く。
「……久しぶりに、朝食がうまいと感じる。
一人で食べる食事は、味気ないものだ」
その言葉に、胸が少し締めつけられた。
(……連れてこれてよかった)
(もっと早く帰せていれば……)
嬉しさと後悔が入り混じる。
そんな俺の表情に気づいたのか、
リュミナが優しく笑った。
「シュウイチ、一緒に食べると楽しいね」
「……ああ。そうだな」
ドラグニアの朝は──
どこか“家族”のように温かかった。
朝食を終え、
俺たちはルミナス神殿へ向かうことになった。
ガルド辺境伯は当初、
「一個師団を護衛につける!」
と本気で言い出したが──
師団長と行政長官に
「街中に展開できる規模ではありません!」
と全力で止められていた。
結局、
ロウガたちが護衛を務めることで落ち着く。
(……いや、師団はやりすぎだろ)
城から神殿までは徒歩でも十分ほど。
街の外に出ることもない距離だが、
馬車で移動することになり、あっという間に到着した。
馬車の中で、
リュミナの頭を撫でながら言う。
「リュミナ、しばらく外出は禁止かもな」
「えーーーっ」
不満そうに見上げてくる。
「シュウイチにいろいろ案内したいのに……」
「辺境伯を説得しないとな」
「シュウイチも手伝ってよ?」
「はいはい」
俺はリュミナの頭をしっかり撫でてやった。可愛いから仕方ないよな。
◆
神殿に足を踏み入れた瞬間──
空気が変わった。
静謐で、澄みきっていて、
どこか懐かしいような気配。
その時、頭の中に声が響く。
『やっと来たか』
「……ダルガスか?」
『もっと早く来てほしかったがな。
まあ、ここまで来れば俺の役目も終わりだ』
その言葉と同時に、
ダルガスの姿が現れた。
(やっぱり出てくるよな)
さらに奥の神像が光を放ち──
その光の中から、
神像と同じ姿の女性が現れる。
「ルミナス様!」
リュミナが駆け寄る。
ルミナスは優しくその頭を撫でた。
(……やっぱりリュミナ可愛いな)
ルミナスはゆっくりと俺に視線を向け、
にこりと微笑む。
「ダルガス、ご苦労様でした──
……なんて言われると思ったかい?」
(……あ、これ怒ってるやつだ)
「さっさと離脱して、修一を困らせてたじゃないか」
「いや、お嬢──」
「誰がお嬢だ。ルミナス様だろうが!」
ダルガスが慌てて抗議する。
「当時の俺じゃ防壁抜けなかったんですよ!
今ならいけますけど!
力渡した直後にあれは無理ですって!」
(……なんだこの会話。
完全に任侠ものなんだが)
思わずそんなことを考えていると──
「修一。変なこと考えてないで、こっちに来な」
「へい」
「“はい”だろ、“はい”」
(……本当に神様か?この人)
でも、そのやり取りが妙に安心する。
「加護の書き換えをする。準備はいいね?」
「……はい」
俺は一歩前に出て、
ルミナスの前に立った。
(ここからが本番だ)




