おまけの俺、次の一歩を決める
勇者の真実を話し終えたあと──
しばらくの静寂が流れた。
その中で、リュミナがぽつりと呟く。
「……シュウイチも、帰っちゃうの?」
涙を浮かべたまま、俺を見上げてくる。
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
でも──嘘はつけない。
「俺は……両親はもういなくて、
家族って言えるのは、美琴の母親である姉さんだけだ。
仕事もあるし……
帰れるようになったら、帰るしかないと思ってる」
その言葉が終わるかどうかの瞬間──
「ダメっ!」
リュミナが勢いよく立ち上がり、
俺の手をぎゅっと掴んだ。
「シュウイチは一緒にいるの!
ねぇ、お父様、いいでしょ!?」
必死な声だった。
ガルドを見ると、
彼は苦笑しながらも、何も言わない。
俺はゆっくりと、リュミナの頭を撫でた。
「……帰る方法も、まだ見つかってないからな。
今すぐどうこうなる話じゃないよ」
リュミナの目が少しだけ和らぐ。
だが──
ここからが本題だ。
「でも、美琴やひより、悠真は違う」
空気が、少し引き締まる。
「彼らには親がいる。家族がいる。
リュミナみたいに……
“帰りを待ってる人”がいるんだ」
リュミナの表情が曇る。
「だから──
彼らは必ず返す。これは絶対だ」
ガルドが静かに頷いた。
「……修一の覚悟は聞いた」
そして、ゆっくりと口を開く。
「まずは明日にでも、ルミナス様の神殿へ行ってみるがいい。
そこに、お前の求める答えがあるはずだ」
ガルドはリュミナを見る。
「リュミナ、案内はできるな?」
「うん!任せて!」
力強い返事だった。
ガルドは娘に向き直り、
柔らかい声で言う。
「リュミナはパーティの準備をしておいで。
メイドたちが着飾りたくて、うずうずしているだろう」
そして、ちらりと俺を見る。
「修一も……かわいいリュミナを見たいだろう?」
思わず苦笑する。
「ええ。
リュミナが笑ってくれた方が、みんな安心しますから」
リュミナがぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ、いってくる!」
ぱたぱたと応接室を飛び出していく。
扉が閉まったあと──
空気が、わずかに変わった。
ガルドが低い声で言う。
「……修一」
「はい」
「リュミナが慕っているようだが──
“番”にはしないぞ」
(……来たな)
俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「リュミナは可愛いですが、
手を出せる年齢じゃないでしょう。
どちらかというと……
娘みたいな感覚ですよ」
ガルドはじっと俺を見たあと、
ふっと笑った。
「ならいい」
そして──
少しだけ、声の調子が変わる。
「……もし帰れなかったら、
わしのところに来ないか?」
「え?」
予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出た。
「恩人を放り出すつもりはない。
それに……リュミナも喜ぶだろう」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「ありがとうございます」
だが──俺は首を振った。
「でもまずは……この騒動を終わらせます」
視線をまっすぐガルドに向ける。
「王国がきな臭いのも、
カイトリアが絡んでいるはずです。
あいつを止めないと……何も終わらない」
ガルドは目を細めた。
「相手は“神”だぞ」
「神だろうがなんだろうが──」
言葉に力がこもる。
「リュミナを不幸にしようとして、
美琴たちまで巻き込んだんです。
……なんとかしてみせます」
しばらくの沈黙。
そして──
ガルドの口元が、わずかに上がった。
「……ふっ」
「その考え方、嫌いじゃない」
大きな手が、俺の前に差し出される。
「共にやるか、修一」
俺はその手を、しっかりと握り返した。
「はい。やりましょう」
二人の手が固く結ばれる。
その瞬間──
応接室の空気が、
確かに“同盟”へと変わった。




