おまけの俺、竜人の父と対面する
応接室の前まで案内される。
メイドが扉の前で姿勢を正し、告げた。
「旦那様、お客様をお連れしました」
中から、低く重い声。
「入れ」
扉が開く。
俺は一度、深く息を吸った。
(……よし)
「失礼します」
中に足を踏み入れる。
そこには──
先ほどの大男。
そして、すでに着替えを終えたリュミナが座っていた。
リュミナは俺に気づくと、ぱっと顔を輝かせる。
その笑顔に少しだけ救われながら、
俺は姿勢を正した。
「初めまして。
王国で勇者召喚に巻き込まれました、佐伯修一と申します」
一礼する。
「リュミナさんには修一と呼ばれています。
よろしければ、そのようにお呼びください」
大男──辺境伯は、ゆっくりと立ち上がった。
「わしはリュミナフィアの父」
一歩前に出る。
「ファルドラ自治連邦、辺境伯」
「ガルド・ドラグニアだ」
その巨体が、ゆっくりと──
頭を下げた。
「まずは、娘を救い、ここへ連れ帰ってくれたこと……礼を言う」
(……え?)
(領主が、俺に頭を下げた?)
慌てて手を振る。
「い、いえ! 偶然ですし……頭を上げてください!」
その時。
横から不満げな声。
「リュミナ“さん”じゃなくて、リュミナ!」
「“さん”はいらないの!」
(……あ、怒ってる)
ガルドを見ると、
「娘の言う通りにしろ」
と無言の圧。
「……わかったよ、リュミナ」
「うん!」
満面の笑み。
(……ほんと、この子は)
(空気変えるのうまいな)
場の緊張が、ほんの少しだけ和らぐ。
だが。
ガルドの視線は変わらない。
鋭く、重い。
(……ここからが本番だな)
俺は覚悟を決めた。
「では……リュミナがさらわれた時のことから、お話しします」
ガルドは腕を組み、静かに頷く。
リュミナは不安そうに、俺の袖をつまんだ。
「町を出てすぐでした」
「護衛の方々が警戒していたんですが──
森の影から、突然黒い影が飛び出してきて」
ガルドの眉がわずかに動く。
「……襲撃か」
「はい」
「護衛の方々はすぐに応戦しましたが……
数が多すぎて、次々と倒れていきました」
ガルドの拳が、静かに握られる。
「……精鋭だったはずだが」
低く唸る。
「全滅、か」
「……はい」
空気が重く沈む。
「その時、カレンナさんが……」
言葉を選ぶ。
「リュミナと服を交換して、囮になると言い出しました」
リュミナの肩が小さく震えた。
「カレンナ……」
ガルドは目を閉じ、深く息を吐く。
「……あの子らしい」
「最後まで、守ろうとしたか」
「カレンナさんはドレスを着て敵の前に出ました」
「その隙に、リュミナは森へ逃げましたが……」
言葉が詰まる。
「……続けてくれ」
「……森の奥で、別の奴隷商人に捕まりました」
「襲撃者とは別の連中です」
その瞬間。
ガルドの目が鋭く光る。
「……奴隷商人ども」
机の端を握りしめる。
「このドラグニアで好き勝手を……!」
怒りが、空気を震わせる。
リュミナが小さく呼ぶ。
「お父様……」
ガルドは娘の頭に手を置いた。
「大丈夫だ」
優しく撫でる。
「お前はここにいる」
「もう誰にも触れさせん」
その言葉に、リュミナはほっと微笑んだ。
俺は続ける。
「その後、王国へ連れて行かれ……そこで俺と出会いました」
話し終える。
静寂。
ガルドはゆっくりと頷いた。
「よく話してくれた、修一」
「……辛かったな、リュミナ」
「ううん」
リュミナが笑う。
「シュウイチが助けてくれたから」
その言葉に、ガルドの表情がわずかに緩んだ。
そして、再び俺を見る。
「……続けてくれ」
(……来たな)
俺は小さく息を吸った。
(ここからが本当の勝負だ)




