おまけの俺、竜の城で覚悟を決める
街に入って、まず驚いたのは──
人々の表情だった。
エルディア王国の首都と比べても、明らかに違う。
明るい。
活気がある。
笑顔が多い。
(……なんかこっちの方が“国として健全”じゃないか?)
露店も並び、
見たことのない食べ物や装飾品が目に入る。
香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
(……あとで絶対回る)
そんな誘惑を振り切りながら、
馬車はそのまま城門を抜け、
ドラグニア城へと入っていった。
しばらく進んだところで、馬車が止まる。
ロウガが振り返った。
「俺たちはここまでだ」
「帰っちまうのか?」
「いや、すぐには帰らん。ここで少し休む」
「じゃあまた後で会えるな」
「たぶんな」
「ここまでありがとう」
拳を軽く突き合わせる。
(……なんだかんだで頼りになるやつだな)
城の中に入ると──
執事とメイドが十数名、
整然と並んでいた。
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
一斉に頭を下げる。
リュミナは、少し寂しそうに微笑んだ。
「ありがとう。でも……カレンナが……」
その言葉に、
中央の執事が静かに答える。
「お嬢様を守るのがカレンナの務め。
無事にお帰りになられたことを、きっと喜んでおります」
一拍。
「まずは皆にお顔をお見せください」
その言葉に、
リュミナの父──辺境伯が続けた。
「今夜、リュミナ帰還の祝宴を開く。
城の者は全員参加だ」
「了解しました!」
一斉に応じる声。
すぐにメイドがリュミナへ歩み寄る。
「リュミナ様、お着替えを。こちらへどうぞ」
「うん」
リュミナは素直に頷き、案内されていった。
その横で、別のメイドが俺に声をかける。
「お客様、こちらへどうぞ」
ついていこうとしたその時。
「……あとで使いを出す」
辺境伯の低い声。
「パーティの前に話を聞かせてもらう」
(……はい来ました“事情聴取”)
「了解しました。また後ほど」
そう返し、俺はメイドの後についていく。
(歓迎されてるのか、警戒されてるのか……)
(正直、どっちもだな)
だが。
リュミナが無事に帰れた。
それだけは確かだ。
(……それで十分だ)
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
案内された部屋は、
客間とは思えないほど広く、整っていた。
そして渡されたのは──着替え一式。
(……ああ、これ完全に“正装しろ”ってやつだな)
マントを脱いだところで、
メイドが一歩前に出る。
「お着替えの前に、お風呂はいかがですか?」
「風呂があるのか?」
「はい。すぐにご用意できます」
「ぜひ!」
即答だった。
王国では、湯船に浸かる文化はほぼなかった。
だからこそ、この一言は魅力的すぎる。
案内された先の扉を開けると──
(……でかっ)
十人は余裕で入れそうな大浴場。
湯気が立ち上り、木の香りが広がっている。
(これ、美琴たちも来たら絶対喜ぶやつだな)
(……なんとか呼べるようにしたい)
そんなことを考えながら、更衣室へ戻る。
服を脱ごうとして──
気づいた。
メイドが、まだいる。
「あの……風呂に入るので……」
「はい、お手伝いさせていただきます」
「いや一人で大丈夫です」
「背中、お流ししますよ」
にこり。
「全身でも」
(なんでそんなやる気満々なんだ!?)
「いや結構です!!」
慌ててメイドを外に押し出し、
扉を閉める。
「もぅ……」
外から聞こえる声は聞こえないことにした。
(……危なかった)
湯船に浸かる。
「はぁ……」
思わず声が漏れる。
身体の芯まで温まる。
疲れが溶けていく。
(……これ、毎日入りたい)
しっかり堪能して、更衣室へ戻ると──
服がない。
代わりに、見慣れない衣装が置かれていた。
(……これを着ろと)
(いや、着方わからん)
困っていると。
「お手伝いしましょうか?」
部屋の隅から声。
さっき追い出したメイドが、
にやっと笑って立っていた。
(……絶対わざとだろ)
「……お願いします」
観念した。
あっという間に着替えさせられる。
(……プロだ)
手際が違う。
着方も教えてもらい、
どうにか形になる。
その時、別のメイドが現れる。
「旦那様が応接室でお待ちです」
(……ついに来たか)
リュミナの父。
ドラグニア辺境伯。
隠し事はしない。
全部話す。
そう決めて、俺は歩き出した。
胸の奥が、静かに熱を帯びる。
(……よし)
(行くか)




