おまけの俺、姫の父に睨まれる
小屋で一泊した俺たちは、
リュミナの故郷──ドラグニア領都を目指して出発した。
ここはすでにファルドラ自治連邦の中。
馬車を借りて街道を進むだけの、比較的安全な旅路だ。
ロウガたちが交代で御者を務め、
しばらく進むと──
巨大な城門が見えてきた。
リュミナがぱっと顔を輝かせる。
「わっ、街に帰ってきた!」
その声に続いて、
門の前に整列する軍隊が目に入った。
「ロウガ、あれは?」
ロウガは目を細める。
「昨日の小屋から連絡が行ってたんだろうな。
辺境伯様の軍だ」
その瞬間。
リュミナが弾けるように叫んだ。
「あっ、お父様だ!」
大きく手を振る。
すると──
軍の隊列が一気にざわついた。
その中心から、
ひときわ大きな男が飛び出してくる。
その後ろを、慌てて追う兵士たち。
(……いやいや待て待て)
(あれ、完全にこっちに来てるよな?)
一直線に、馬車へ突っ込んでくる。
御者席のコマチが冷静に言った。
「ロウガ様、止めた方がよろしいでしょうか?」
「そうだな。このままだと衝突する」
「了解しました」
馬車が止まる。
俺はリュミナを連れて降り、
迫ってくる軍の前に立った。
(……めっちゃ怖いんだが!?)
(でもリュミナが手振ってるから逃げられない!)
やがて先頭の男──
ドラグニア辺境伯が到着し、
そのままリュミナを抱き上げた。
「無事だったか、リュミナ!」
「はい、お父様!
シュウイチに助けてもらいました!」
「そうか……よかった……!」
感動の再会。
いい話だ。
実にいい話だ。
ただし。
俺の首元には槍が突きつけられている。
「人族が何しに来た」
(いやいやいやいや!?)
(助けたの俺なんだけど!?)
(なんで俺だけ処刑ルート入ってるの!?)
リュミナの父は娘に夢中。
完全にこっちは視界外。
槍の穂先が、じわじわと喉元に近づく。
(これ、普通に死ぬやつでは?)
俺は心の中で泣きながら、
リュミナへ助けを求める視線を送る。
……気づかない。
(……終わった)
その時。
辺境伯の視線が、ようやく俺に向いた。
その目は──
恩人を見る目ではない。
“娘の近くにいた男を査定する父親の目”だった。
(あ、これ別ベクトルで怖いやつだ)
俺の試練は、まだ終わっていなかった。
両手を上げて、
「反抗の意思はありません!」
と全力でアピールする。
すると──
ようやくリュミナが気づいた。
「お父様!」
ぐいっと身を乗り出す。
「命の恩人であるシュウイチにひどいことしないで!」
その一言で、空気が変わった。
辺境伯は振り返り、怒鳴る。
「こやつはリュミナの恩人だ! 引け!」
その瞬間。
槍が一斉に下がった。
(……助かった……!)
全身の力が抜ける。
その横で、ロウガがぼそっと言った。
「大変だったな」
「今までどこにいた」
「こうなると思って、馬車で見てた」
「護衛だろ!? 仕事しろ!」
「リュミナちゃんを送り届けた時点で任務終了だろ」
「ぐぬぬ……」
(正論だけど腹立つ……!)
そんなやり取りをしていると、
辺境伯がこちらへ歩いてきた。
「娘を救っていただき、感謝する」
低く、重い声。
「ひとまず、我が城へ来てもらいたい」
一拍置いて、
「リュミナ、それでいいな?」
「うん!」
リュミナは父の腕から軽やかに降り、
まっすぐ俺のもとへ走ってきた。
そして──
ぎゅっ。
俺の手を握る。
「シュウイチ、一緒にいこっ」
にこっと笑う。
(……ああ、これは)
(断れないやつだ)
さっきまでの恐怖も、
辺境伯の圧も、
全部吹き飛ぶくらいの笑顔だった。
俺はその手を握り返し、
ドラグニアの城へと歩き出した。
(……さて)
(今度はどんな試練が待ってるんだか)




