賢者は新たな一歩を踏み出す
side:悠真
ライルさんが振り返り、
僕たちに手で合図を送った。
「とりあえず、アジトまで案内しよう」
その言葉に従い、
僕たちは静かに歩き出す。
先頭はライルさん。
その後ろに美琴さんとひよりさん。
そして――
メイド姿のイリア様。
最後尾に僕。
(……完全に護衛隊だな)
森の中をしばらく進む。
木々に覆われた道は細く、
外からは存在すら気づかれないだろう。
やがて――
木の影に溶け込むように建てられた建物が見えてきた。
ライルさんが足を止め、振り返る。
そして、静かに頭を下げた。
「ようこそ。我々のアジトへ」
視線をイリア様へ向ける。
「窮屈な場所かもしれませんが……どうぞ」
イリア様は周囲を見渡し、
ふわりと微笑んだ。
「……素敵な場所ですね」
その声は穏やかで、どこか柔らかい。
「しばらく、お世話になります」
その姿は、
もはや“王女”というより――
ただの旅人の少女のようだった。
美琴さんがぽつりと呟く。
「ここに……叔父さんもいたんだよね」
ライルさんが頷く。
「ああ」
短く答え、続ける。
「竜人の少女を助けてな。今はその子と一緒に、ファルドラへ向かってる」
ひよりさんが、少し不安そうに口を開く。
「もし……私たちも城を追い出されるようなことがあったら……」
一瞬、言葉を迷う。
「ここに来ても……いいですか?」
ライルさんは、迷いなく答えた。
「問題ない」
腕を組み、しっかりと言い切る。
「シュウイチからも聞いている。あいつが信じた相手なら、俺たちも信じる」
少しだけ視線を鋭くする。
「俺たちを売らない限りはな」
美琴さんとひよりさんは、同時に頭を下げた。
「ありがとうございます」
当初の目的――
“イリア様を安全な場所へ届ける”
それは、確かに達成された。
僕は小さく息を吐き、口を開いた。
「……今日はもう、城に戻ろう」
視線を三人に向ける。
「イリア様がいなくなったことがバレた時、どう動くか……考えないといけない」
ライルさんが真剣な表情で頷く。
「城の情報は、いつでも欲しい」
一歩近づき、低い声で続ける。
「困ったことがあれば、今回みたいに頼ってくれ」
「……ありがとうございます」
短い言葉だった。
けれど――
そこには確かな“信頼”があった。
僕たちはアジトを後にする。
振り返らず、森の中を進む。
(これで終わりじゃない)
むしろ――
ここからが始まりだ。
城へ戻る道を急ぎながら、
僕は胸の奥に灯った感情を確かめる。
(イリア様は守れた)
(でも――)
神谷。
アリア王女。
カイトリア。
まだ何も終わっていない。
(次は……)
(こっちから動く)
静かに、しかし確かに。
胸の奥で“覚悟”が形になっていくのを感じながら――
僕は前を見据えた。
「――これが、本当の始まりだ」




