賢者は仲間と脱出を成し遂げる
side:悠真
部屋でしばらく待っていると、
ノックとともに美琴さんの声が聞こえた。
「おまたせ。準備できたよ。行こうか」
扉を開ける。
そこに立っていたのは――
“完全に冒険者仕様”の三人だった。
美琴さんは鎧を身につけ、
背中には剣と盾。
ひよりさんはローブ姿で、
手には見慣れた杖。
そして――
メイド服の上にフード付きのローブを羽織り、
大きな荷物を背負った一人の“メイド”。
(……中身はイリア様)
僕はいつも通り、ローブに杖。
「じゃあ行こう」
美琴さんの一言で、僕たちは城門へ向かった。
門番に止められる。
だが、美琴さんは落ち着いた笑顔で答えた。
「腕がなまらないように、
街の依頼を見てこようと思って」
軽く肩をすくめる。
「荷物持ちも借りられたので、助かってます」
(“荷物持ち”=イリア様……)
門番は少しだけこちらを見たが、
すぐに興味を失ったように頷いた。
「気をつけてな」
(……通った)
城門を抜けた瞬間、
胸の奥で小さく息を吐く。
(第一関門、突破)
(今頃――)
神谷は朝食の時間に、気づくだろう。
“第2王女がいない”ことに。
(ざまぁ……)
ほんの一瞬だけ、気分が軽くなる。
だがすぐに頭を振る。
(まだ終わってない)
僕たちは城下町を抜け、
郊外の見張り小屋へ向かう。
獣人のアジト。
歩きながら、背後の気配を確認する。
フードをかぶった“メイド”。
(大丈夫だ)
(必ず守る)
心の中で、そう誓う。
やがて、小屋が見えてきた。
その前に――
腕を組んで立つライルさんの姿。
「ユウマ、無事に来たか」
短く言ってから、周囲を見渡す。
「……で、イリア様はどこだ?」
僕は振り返り、静かに声をかける。
「イリア様、もう大丈夫です」
“メイド”が一歩前に出る。
フードを外す。
その瞬間。
ライルさんは迷いなく片膝をついた。
「街の獣人をまとめていたジェイドの子、ライルです」
頭を垂れる。
「お久しぶりです、イリア様」
イリア様は少し驚いたように目を見開き、
すぐに柔らかく微笑んだ。
「ライルさん……お久しぶりです」
優しく問いかける。
「ジェイドさんも、こちらに?」
ライルさんは、静かに首を振った。
「親父は……亡くなりました」
短い言葉。
だが、その重さはすぐに伝わる。
「獣人をファルドラへ逃がそうとして……
そのせいで目をつけられて」
イリア様は胸元で手を握りしめた。
「……ごめんなさい」
小さく、震える声。
「そんなことになっていたなんて……」
ライルさんは首を横に振る。
「イリア様のせいじゃありません」
静かに言い切る。
「ユウマから話は聞いています。
あなたが幽閉されていたことも」
顔を上げる。
「ここにいる間は、我々が守ります」
(……この場にいていいのかな)
少しだけ居心地の悪さを感じて、
僕はそっと距離を取る。
美琴さんとひよりさんの隣へ移動した。
美琴さんが小声で言う。
「知り合いだったんだね」
「みたいだね」
「じゃあ、イリア様って一人でもここに来れたんじゃ……?」
僕は苦笑した。
「来れたかもしれないけど」
少しだけ肩をすくめる。
「僕たちと一緒だったから、城を出られたんだと思う」
「……そっか」
その時。
背後から声が飛ぶ。
「ユウマ」
振り返る。
「そこの二人も紹介してくれ」
「あ、すみません」
僕は姿勢を正す。
「こちらが聖騎士、美琴さん」
「そして聖女、ひよりさんです」
「こちらが、獣人のまとめ役をしているライルさんです」
美琴さんが一歩前に出る。
「聖騎士の白浜美琴です」
軽く頭を下げる。
「修一叔父の姪です」
ひよりさんも続く。
「聖女の桜井ひよりです。よろしくお願いします」
ライルさんは腕を組み、
少しだけ照れたように笑った。
「ライルだ」
短く名乗る。
「勇者“以外”に会えるとは思わなかった」
その一言に。
僕たち三人は、同時に苦笑した。
(……気持ちはわかる)
ふと視線を感じて振り向くと。
イリア様が、少しだけ楽しそうにこちらを見ていた。
「――これが“賢者の戦い方”だ」




