賢者は静かに覚悟を決める
side:悠真
僕の名前は白石悠真。
桜ヶ丘高校二年、十七歳。
運動よりも読書や勉強の方が好きで、
気づけばいつも本を手にしているような人間だ。
小学校でも中学校でも――
運動が苦手なやつは、目をつけられやすい。
……僕も例外じゃなかった。
中学の頃、
神谷たちのグループに、ほぼ毎日いじめられていた。
殴られることは少なかったけど、
無視、陰口、物を隠される――そんなのは日常だった。
高校に入ってからは多少マシになったけど、
神谷たちだけは、相変わらず僕を見下してくる。
そんな僕が――
ある日、突然“異世界”に召喚された。
王城の玉座の間。
そこに立たされた瞬間は、正直――胸が高鳴った。
(ファンタジーの世界だ……)
そんな非現実に、少しだけ心が躍った。
……でも。
隣に神谷がいるのを見た瞬間、悟った。
(あ、これ……ダメな召喚パターンだ)
勇者が神谷。
つまり僕は――“巻き込まれた側”。
関われば、また踏みつけられるだけの立場。
だから僕は決めた。
(勇者には関わらない。静かに生き延びる)
それが一番だと。
召喚されたのは、白浜さん、桜井さん、
そして白浜さんの叔父さん――佐伯修一さん。
白浜さんと桜井さんは、
中学の頃、僕を助けようとしてくれた人たちだ。
結局、止めることはできなくて――
「助けられなくてごめんね」
って、泣きながら謝られたこともあった。
でも――悪いのは、彼女たちじゃない。
あの時、僕は初めて知ったんだ。
(この世界には……優しい人もいるんだ)
だから今度は――【僕が助ける番だ】
そして、修一さん。
異世界に来てから知り合った大人。
でも――
僕みたいな人間にも、普通に接してくれた。
気を使ってくれる。
ちゃんと話を聞いてくれる。
僕を、“一人の人間”として見てくれた。
僕の家では――
優秀な兄と姉ばかりが評価されて、
僕はずっと“お荷物”扱いだった。
だから修一さんは――
僕にとって初めての、
【尊敬できる大人】だった。
その修一さんが追放される。
しかも――
「美琴と桜井さんを頼む」
なんて言われたら。
(……やるしかないじゃないか)
第2王女の件だって、そうだ。
危険なのはわかっている。
でも――
(逃げるわけにはいかない)
僕はもう、
ただの“いじめられっ子”じゃない。
守りたい人がいる。
守らなきゃいけない人がいる。
だから――
僕は前に出る。
(第2王女、イリア様……)
(あなたが、この国を変える鍵になる)
そして――
(神谷……)
(もう、お前の好きにはさせない)
僕は静かに拳を握った。
守るために。
抗うために。
そして――
未来を変えるために。
僕は戦う。




