おまけの俺、姫の隣に立つ
廃坑の奥を抜けると――
遠くに、淡い外の光が見えた。
だが、外に出た頃にはすでに日が落ちている。
「……半日で抜けられたのは上出来だな」
ロウガが周囲を警戒しながら呟いた。
「先に小屋の様子を見てくる」
そう言って、ロウガは一人で前へ出る。
廃坑の出口付近には、小さな監視用の小屋が建っていた。
扉が開き、数人の兵士が姿を現す。
一瞬、緊張が走る。
兵士たちは剣に手をかけたが――
ロウガの姿を確認した途端、すぐにその手を離した。
「……問題ない。来てくれ」
ロウガが手招きする。
俺たちは小屋へと向かった。
小屋の中には――
三人の獣人兵が、片膝をついて待っていた。
「よくご無事で……リュミナフィア姫」
その言葉に、リュミナの身体がびくりと震える。
ぎゅっと、俺の背中に隠れた。
兵士の一人が頭を垂れたまま続ける。
「辺境伯様も大変心配されております。
私はこの地の警備隊班長、ジョンと申します。
どうかこの小屋をお使いください」
リュミナは戸惑ったまま、俺の服を掴んで離さない。
俺はそっと声をかける。
「大丈夫だ。とりあえず“ありがとう”だけでいい」
リュミナは小さく頷いた。
そして一歩前へ出る。
「……ありがとう。
使わせていただきます」
震えた声。
だがその奥には、確かに“姫”としての気品があった。
小屋に入った後。
リュミナはロウガたちへ向き直り、深く頭を下げた。
「今まで……隠していて、ごめんなさい」
すると――
「姫様のことは最初から存じておりました!」
三人が同時に声を上げた。
「シュウイチ殿に隠されていると察し、我々も口を閉ざしておりました!
これまでの非礼、どうかお許しください!」
そのまま、三人とも地に頭を擦りつける。
リュミナが目を丸くして俺を見る。
(まぁ……驚くよな)
俺は苦笑しながら言った。
「とりあえず、顔を上げてくれ。リュミナが困ってる」
三人は慌てて起き上がる。
俺は一歩前に出て、軽く頭を下げた。
「彼女を辺境伯のもとへ送り届けるまで、力を貸してほしい」
それを見て、リュミナも慌てて頭を下げる。
「……よろしくお願いします」
その姿に、兵士たちは胸に手を当て、深く礼を返した。
ドラグニアの地。
ここで――
リュミナは“姫”として迎えられた。
そして俺は――
彼女を守る者として、その隣に立つ。
「――俺は、この子の隣に立つ」
◆
小屋で一息ついた俺は、魔道具を取り出した。
淡い光が灯る。
しばらくして、美琴の声が響いた。
『こんばんは、叔父さん』
「こんばんは。こっちは無事に国境を越えた。そっちは?」
『早いね。こっちは……最初の戦闘で神谷くんがケガして、ひよりが治療したよ』
(……やっぱりな)
『その後は、神谷くんが怖がって前に出なくてさ。
私と悠真くんで動きを止めて、三人で順番に倒した』
「美琴は無事か?」
『ちょっと擦りむいたくらい。でもひよりがすぐ治しちゃった』
「ならいい」
少し安心する。
「遠征は終わったのか?」
『うん。“勇者が未熟”ってことで再訓練。
私たちは自主練だって。なんか意味あるの?って感じ』
(……完全に計画が崩れ始めてるな)
「悠真くんは?」
『うまくやってたよ。あとで“魔術ならもっと楽だった”って言ってた』
その時、別の声が割り込んだ。
『悠真です。修一さん、少し相談が……』
「いいが……そこで話す内容か?」
『できれば……白浜さんたちがいない方が……』
『なに?エッチな話?』
美琴の茶々が飛ぶ。
『ち、違うよ!
ただ……聞いたら気分が悪くなるかもしれなくて……』
俺は少し考えてから言った。
「美琴、選べ。
聞くなら最後まで口を挟むな。
聞かないなら、場所を変えて改めて聞く」
少しの沈黙。
そして――
『……聞く。
危ない話なら、なおさら』
『そういうわけじゃ……』
『ひよりも呼ぶ』
足音が遠ざかる。
(……さて)
俺は魔道具を見つめた。
(悠真の“相談”……か)




