おまけの俺、反撃の始まり
兵士たちは俺を森の奥へ運び――
「じゃあな」
そのまま、崖の下へ放り投げた。
(はいはい、想定通り)
身体が宙に浮き、視界が反転する。
風が耳元を唸り、地面が迫る――
だが、その瞬間。
(影、発見)
視界の端に映った木々の影へ意識を集中させる。
――すっ。
次の瞬間、俺の身体は影の中へと沈み込んだ。
落下の衝撃は――ゼロ。
影の中で体勢を整え、ゆっくりと地上へ抜け出す。
(……問題なし)
上を見上げると、崖の上にはすでに人の気配はない。
(影に入ったところは見られていないな)
《遮断の外套》を発動。
そのまま影から影へと移動し、森を抜ける。
向かう先は――アジトだ。
アジトへ戻った瞬間――
「しゅういちっ!」
いつものように、小さな影が飛びついてきた。
「シュウイチが来た……って、なにそれ!?」
「もがもが(猿轡)」
リュミナは一瞬ぽかんとしたあと、すぐに叫ぶ。
「エルドー!これ切って!」
「はいはい、ちょっと待って……って、これは……」
駆け寄ってきたエルドが俺の姿を見て固まる。
「……ひどいですね。とりあえず切ります」
手際よく縄と猿轡が外される。
「ぷはっ……助かった。ありがとう、エルド」
「いえいえ……それより大丈夫ですか?」
「問題ない」
リュミナが胸を張る。
「えっへん!私も手伝った!」
「リュミナもありがとう」
そう言って頭を撫でると、満面の笑みが返ってきた。
(……癒されるな)
アジトの空気が、一気に和らぐ。
だが――
(ここからが本番だ)
胸の奥で、静かにスイッチが入る。
「無事に戻ったか」
ライルが腕を組んで言った。
「ああ。予定通りだ」
「崖から落とされたって聞いたぞ?」
「影魔術があるからな。あの程度じゃ死なない」
エルドが苦笑する。
「いや……普通は死にますよ?」
「俺は普通じゃないらしい」
「自覚あったんですね」
ロウガが鼻で笑う。
「どこが一般人だ」
「一応そのつもりなんだけどな」
「無理がある」
即座のツッコミに、思わず肩をすくめる。
ライルが感心したように言った。
「それにしても、よくあの状況で冷静だったな」
「《虚無視界》で全部見えてたからな。兵士の動きも、地形も、逃げ道も」
「……やっぱりお前、化け物だな」
「ひどくない?」
軽口を叩きながらも、空気はどこか明るい。
リュミナは俺の腕にしがみついたまま、嬉しそうに笑っている。
「シュウイチ……戻ってきてくれてよかった……!」
「ただいま、リュミナ」
その一言に、リュミナはさらに強く抱きついてきた。
(……守る)
その温もりを感じながら、改めて思う。
追放は終わった。
だが――ここからが本当の戦いだ。
勇者一行は遠征へ向かった。
俺はリュミナとともに、ルミナス神殿へ向かう。
それぞれの道が、いま確かに動き出した。
「――次は、こっちの番だ」




