おまけの俺、崖から捨てられる
「……リュミナは起きそうにないな。とりあえず寝かせてくる」
そう言って俺はリュミナを抱き上げ、静かに部屋へ運んだ。
アジトに戻ると、空気は重く沈んでいた。
誰もが、先ほどの“神の声”を反芻している。
悠真は頭を抱え、震える声で呟いた。
「僕だけじゃなくて……桜井さんも、白浜さんも……
生贄、なんですか……?」
拳を握りしめる。
「勇者である神谷に、あの二人を差し出すなんて……
絶対にできません。今こそ……
あいつと決別するべきだと思います。でも……どうすれば……」
ライルが腕を組み、静かに言った。
「さっきの話だと、勇者はまだ完成していない。
つまり――時間はある、ってことだな」
悠真はゆっくり頷いた。
「はい……ルミナス様の言い方だと、そう受け取れます」
ロウガが低く口を開く。
「今度、遠征に出るんだろ?
なら――勇者が成長しないように邪魔すればいい。時間を稼げる」
その言葉に、悠真の目が見開かれる。
「……それだ」
迷いが消えた声だった。
「桜井さんと白浜さんにも伝えます。
三人で協力して……神谷くんの成長を抑えます」
ライルがじっと見つめる。
「話、聞いてもらえるのか?」
「白浜さんは修一さんの姪です。
彼女が納得すれば……桜井さんも動いてくれます」
ライルは満足げに頷いた。
「いいだろう。城から逃げるなら、俺たちも協力する。
通信機を貸してやる。使い方はわかるな?」
「はい。ありがとうございます」
悠真は深く頭を下げた。
その時、俺が部屋へ戻る。
「お、二人ともいい感じに話せてるみたいだな」
悠真は真っ直ぐこちらを見た。
「神谷くんを強化させないように動きます。
桜井さんと白浜さんにも話します。時間は稼ぎます」
一拍置いて、続ける。
「だから――修一さん、お願いします」
俺は少しだけ驚き、それから静かに頷いた。
「……ああ」
(俺に何ができるか、まだ分からない。でも――)
「リュミナと一緒に、ファルドラのルミナス神殿に行く。
そこに答えがあるはずだ」
俺はライルへ視線を向ける。
「ライル、こっちは頼む。あの三人は……絶対に死なせたくない」
ライルは力強く頷いた。
「任せろ。必ず守る」
アジトの空気が、静かに変わる。
それぞれが覚悟を決め、動き出した瞬間だった。
翌朝。
城の中庭には、勇者一行と騎士団が集まっていた。
颯太、美琴、ひより、悠真。
そして十数名の騎士。
【遺跡の魔物討伐】という名目の実戦訓練。
勇者パーティは、そのまま城を出発する。
(……頼んだぞ)
出発前、悠真は小さく言っていた。
『神谷くんが強くなりすぎないように調整します。
白浜さんと桜井さんにも話してあります』
(あいつらならやれる。任せるしかない)
――そして。
勇者一行が城門を出た、その直後だった。
「……っ!」
背後から、複数の気配。
振り返る間もなく、兵士たちに押さえつけられた。
(来たか……)
手足を縛られ、目隠しをされ、猿轡まで噛まされる。
抵抗は――しない。
そのまま馬車に放り込まれた。
ガタガタと揺れる中、俺は冷静に状況を整理する。
(……全部、見えてるけどな)
《虚無視界》。
地形、人数、進行方向。
すべて把握済みだ。
(やっぱり……アジト近くの森か)
しばらくして、馬車が止まる。
担ぎ上げられ、森の奥へ運ばれる。
「ここでいいだろ」
「さっさと終わらせるぞ」
兵士たちは俺を乱暴に運び――
「じゃあな」
そのまま、崖の下へと突き落とした。
「――まあ、問題ない」




