おまけの俺、完全に消されることが決まる
翌日。
俺は影魔術を使い、
王女アリアの執務室へと潜り込んだ。
扉の外から、近衛騎士の声が聞こえてくる。
「勇者様たちの訓練ですが――
聖女様、聖騎士様、賢者様の成長は目を見張ります。
すでにスキルも十分に使いこなしております」
アリアは無表情のまま頷いた。
「……そうか。
勇者はどうだ?」
「勇者様は……訓練に参加したり休んだりで、
他の三名より遅れている模様です」
アリアの目が、わずかに細められる。
「勇者は“育てねばならぬ”。
実戦経験を積ませよ。
魔物討伐に向かわせるといい」
(……やっぱり颯太は特別扱いか)
近衛騎士は深く頭を下げた。
「仰せのままに。
適当な魔物を見繕い、向かう先を決めます。失礼します」
扉が閉まる。
しばらくの沈黙のあと――
アリアはゆっくりと側近へ向き直った。
その目は、もはや“人のものではなかった”。
「勇者は育てよ。
あれは“器”となる」
(……器?
やっぱり依り代にする気か)
アリアは続ける。
「だが――
巻き込まれた男は不要だ。
あれは勇者の成長を妨げる」
(……俺のことだな)
側近が静かに問い返す。
「では……例の者は?」
「勇者が外へ出たら、
“巻き込まれ男”を追放せよ。
郊外の森に捨てれば、魔物が証拠を消してくれる」
(……ついに来たか)
アリアの声は冷たく、
まるで神の言葉をそのまま読み上げているようだった。
「抵抗するなら痛めつけても構わぬ。
死んでも問題はない。
勇者の器さえ無事ならば……他はどうでもよい」
「はっ」
アリアは窓の外を見つめ、
何の感情もない声で呟いた。
――完全に操られている。
(黒衣の神官、カレンナさん、幽閉された王族……
まだ調べたいことは山ほどある)
だが――
(潮時だな)
俺の排除は、正式に決定した。
(アジトに連絡しておくか。
リュミナをファルドラに連れて行く準備も必要だ)
影が揺れ、
俺の身体を包み込む。
俺は静かに執務室を後にした。
王女の執務室を離れた俺は、
そのまま城を抜け、街へ向かった。
(追放が決まった以上……準備は早い方がいい)
まず向かったのは服屋だ。
リュミナに似合いそうな服を選び、
角を隠せるフード付きのマントも購入する。
ついでに、自分用の旅装も整えた。
(これで……いつでも動ける)
荷物を抱え、アジトへ向かう。
――扉を開けた瞬間。
「しゅういちっ!」
小さな影が飛びついてきた。
「こんにちは、リュミナ。
今日はリュミナに似合いそうな服を買ってきたよ」
リュミナはぱっと笑顔になり、
尻尾をぱたぱたと揺らした。
「こんにちは、シュウイチ!
どんな服? シュウイチ、センスいいかな?」
(……ほんと、可愛いな)
抱きついたままのリュミナを軽く抱き上げる。
「まずは中に入ろう」
「うん!」
アジトの中で、
リュミナに服とマントを手渡す。
「一度着てみてくれ」
「わかった!」
嬉しそうに部屋へ駆けていくリュミナ。
その背中を見送りながら、
ライルが顔を出した。
「今度はプレゼント作戦か?
そんなことしなくても、リュミナちゃんは十分懐いてるだろ」
「いや……そろそろ追放されそうなんだ。
それで旅装を兼ねて買ってきた」
ライルの表情が一瞬で引き締まる。
「そうか……どう処分するつもりだ?」
「近くの森に放り出すらしい」
「森に?
お前が森に放り出されて困るとは思えないが……」
「俺の能力は知られてないからな。
いまだに一般人扱いだ。むしろ都合がいい」
ライルは地図を広げ、ある地点を指差した。
「この辺りだな。
魔物はいるが……お前なら問題ない」
「だろうな」
二人で軽く笑い合う。
(追放されるってのに、
こんなに落ち着いていられるとはな)
それでも分かっている。
(ここが……俺の“居場所”になってるんだな)
「――次は、俺の番だ」




