おまけの俺、黒幕に見つかりかける
深夜の城は、
静寂に支配されていた。
遠くで響くのは、
衛兵の足音だけ。
俺は影から影へと滑るように移動しながら、
王城の奥へと潜っていく。
その時――
(……声?)
王女の執務室の前を通りかかった瞬間、
かすかな気配を感じた。
扉の隙間から、低い声。
俺は《遮断の外套》を強め、
影に沈む。
扉の影へと潜り込み――
中を覗いた。
そこには。
黒衣の神官が、
ひざまずいていた。
その前に浮かぶのは――
黒い球体。
(……あれがカイトリアか?
それとも……端末?)
黒い球が、ゆっくりと脈動する。
神官は頭を垂れ、報告していた。
「……王家の者は、依然として眠ったまま」
「アリア様も……問題なく操れております」
黒い球が、低く唸る。
「……よい」
「勇者が動けば、計画は完成する」
(……やっぱりか)
(勇者を戦争に使うつもりだ)
さらに聞こうと、
わずかに踏み込んだ――その瞬間。
ピクリ。
黒い球が震えた。
「……何者だ」
(やばい)
次の瞬間。
黒い球から、
闇の矢が放たれる。
――ドンッ!!
「っ!」
反射的に影へ潜る。
一瞬前までいた場所を、
黒い矢が貫いた。
(……完全に感知された!)
影の中から様子を窺う。
神官が立ち上がり、
鋭い視線で廊下を見渡していた。
「……確かに気配があった」
(そりゃそうだろ)
神官は球体を袖に収め、
警戒したまま歩き出す。
足音が遠ざかる。
(……助かったか)
息を殺したまま、動かない。
やがて完全に気配が消えた。
(あの球……やっぱり通信端末か)
(カイトリアと直接繋がってる)
背筋に冷たいものが走る。
(……深入りしすぎると死ぬな)
◆
影の中で思考を整理する。
(追うか……?)
(いや……)
神官は危険すぎる。
(まずは情報だ)
(カレンナの手がかりを優先する)
俺は影の中を滑るように移動する。
(“人の気配”がある場所を探す)
城の別塔へ向かう。
(……この塔、妙に静かだな)
階段を上る。
そして――
(……いた)
扉の前に、衛兵が二人。
明らかに厳重な警備。
(王の部屋より厳重ってどういうことだ)
(……怪しいな)
正面は無理。
外壁へ回る。
影を伝い、窓へ。
そっと中を覗く。
(……少女?)
部屋の中にいたのは、
一人の少女だった。
金髪。
どこか気品のある顔立ち。
(角はない……龍人じゃない)
(カレンナではないな)
だが――
(この雰囲気……)
(王族か?)
少女は窓の外を見つめ、
小さく息を吐く。
その表情は、
明らかに“自由な人間”のものではない。
(……幽閉されてるな)
(王女アリアが操られているなら……)
(他の王族が拘束されていてもおかしくない)
脳内で線が繋がる。
(融和派の王族を排除)
(アリアを操って国を動かす)
(……クーデターか)
確信に近づく。
(なら、この子は……)
(味方になる可能性がある)
だが。
(……今は無理だ)
(ここで動けば終わる)
俺は静かに影へ沈んだ。
(まだだ)
(今は、情報を集める)
影が揺れる。
城の闇へと溶け込む。
(神官の部屋……)
(カレンナの痕跡……)
(まだ探る場所はある)
俺は、さらに奥へと潜っていった。




