おまけの俺、裏側の神に拾われる
俺の名前は佐伯修一、28歳。
そろそろ「おじさん」と呼ばれても文句は言えない年齢だ。
小さな会社に勤めて6年。
仕事にも慣れ、残業もほとんどない。
退屈だが、悪くない日常だった。
そんな“いつも通り”の週初め朝だ。8時10分の電車に乗るために家を出た。
駅へ向かう道。
前を歩くのは姪の白浜美琴と、その友達の少女。
それが“聖女”になるひよりだと知るのは、もう少し先の話だ。
俺と美琴の間には、スマホを見ながら歩く男子生徒が一人。
これが“賢者”になる悠真。
この時は、ただの高校生にしか見えなかった。
(今日の仕事は……午前中に資料作って、午後は打ち合わせか)
そんなことを考えながら歩いていた、その時だった。
「おたくくん、今日も歩きスマホか?」
バカにするような声が聞こえ、思考が中断される。
前を見ると、男子生徒に絡む同級生らしき男がいた。
「邪魔だな」と思い、進路を変えようとした瞬間――
彼らを中心に、光の輪が広がった。
――意識が遠のく。
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。
足元が浮くような感覚。
耳鳴りと、心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。
「……ここは、どこだ?」
夢なら早く覚めてくれ、と心の中で呟きながら、辺りを見回す。
すると、どこからともなく現れたのは、胡散臭い糸目の男だった。
俺より少し年上に見えるその男が、ニヤリと笑う。
「よう、お目覚めか」
糸目キャラは大体裏切り者か強敵だったな……と考えがよぎる。
だが、まずは状況整理だ。
「ここは? あんたは誰だ?」
「ここは勇者召喚に割り込んだ空間だ」
男は肩をすくめる。
「お前は王国の勇者召喚に巻き込まれた被害者ってとこかな?」
一拍置く。
「俺はダルガス。ルミナス様に仕えている」
王国の勇者召喚に巻き込まれた?
ルミナス様?
すぐに理解できるほど、頭は柔らかくない。
とりあえず名乗ってもらえたので、こちらも名乗る。
「俺は佐伯修一。勇者召喚に巻き込まれたってことは、勇者は前にいた男の子か?」
「そうだ。そしてこの勇者召喚は、ルミナス様の世界を乗っ取った神によるものだ」
「世界からルミナス様の力を排除するためのな」
「巻き込まれたついでに、ルミナス様のために働いてくれないか?」
「ダルガスは神の眷属か何かなのか?
そもそも勇者召喚に割り込めるなら、止めればいいだろ」
「それができれば、そうしたいが……」
ダルガスはわずかに表情を曇らせる。
「ルミナス様の力はやつに抑えられている。俺にはそこまでの力はない」
「だが、協力してくれるなら修一に力を与えることはできる」
「やってくれないか?」
状況がさっぱり分からない。
分かったのは一つ。
俺は勇者召喚に巻き込まれたということだ。
さて、このおっさんにつくか、別の神につくか。
不思議と、頭は冷静だった。
黙っていると、ダルガスが焦った様子で言う。
「時間がない。召喚に割り込んでいるだけだ」
「手を取ってくれ」
「どうだ?」
「受けて、俺にデメリットはあるのか?」
「ないとは言わない」
「だが、メリットがあるよう俺もついていく」
「向こうの世界を知っている奴がいた方が安心だろ」
「これってクーリングオフができるのか?」
「あぁもう、気に入らなければ解除してやる。その時は言ってくれ」
「それなら、この右も左も分からない状況だ。受けよう」
ダルガスが手を差し出す。
次の瞬間、眩い光が胸に飛び込んできた。
熱いような、冷たいような、不思議な感覚が体中を駆け巡る。
「うおっ……! これが異世界の力、なのか?」
「今渡せる力は《遮断の外套》と《虚無視界》だ」
「《遮断の外套》は見つかりにくくなるスキル」
「《虚無視界》は隠されたものを見つけるスキルだ」
「ルミナス様に会えれば、もっと強い力にできるはずだ」
そう言うと、ダルガスの体が縮み、妖精サイズになる。
「渡した力で今は打ち止めだ」
「修一、お前の中に入って助言してやる」
そう言って、俺の胸に飛び込んできた。
(……いや、勝手に入ってくるな)
心の中でツッコむ。。




