気配ゼロで首を落とす
『……お前は邪神の巫女か』
低く、殺意のこもった声が廃鉱に響いた。
『お前か──カイトリア様の加護を切った者は!』
『まずは……お前から食い殺してやる』
黒狼が地を蹴り、
一直線にリュミナへ突っ込んでくる。
リュミナ──
“巫女”と呼ばれる少女。
俺がこの世界で最初に守ると決めた少女だ。
「カバームーブ:リュミナちゃん!」
美琴が即座に割り込み、盾を構える。
彼女は“聖騎士”。
俺たちの中で最前線に立つ、頼れる姪っ子だ。
「ホーリーシールド!」
「アースウォール!」
ひよりと悠真の魔法が重なる。
ひよりは“聖女”。
優しいけど芯が強く、回復も防御もこなす。
悠真は“賢者”。
冷静沈着で、状況判断は俺より速い。
だが──
黒狼はアースウォールを砕きながら突進してきた。
(……速い。前に戦った眷属より、明らかに強い!)
リュミナが叫ぶ。
「お願い! みんなを守って!」
その声に応えるように、
全員の身体が淡く光に包まれた。
黒狼が美琴へ迫る。
美琴は盾を構え、
その後ろにはリュミナがいる。
そして──
そのリュミナの影から、俺は現れた。
俺──佐伯修一。
会社員だったが、
“勇者のおまけ”として異世界に召喚された男。
だが今は、影を操り、
仲間を守るために刃を振るう。
「今なら──いける」
《神威の滅剣》
黒い刃が光を吸い込み、
廃鉱の空気が一瞬だけ凍りつく。
黒狼の首元へ、刃を振り抜いた。
ザシュッ──!
黒狼の動きが止まり、
赤い目が大きく見開かれる。
『……な……に……?
気配が……なかった……』
黒狼の首が地面へ転がり落ちた。
眷属の身体は黒い霧となって崩れ、
廃鉱に静寂が戻る。
俺は深く息を吐いた。
(……“暗闇”は、断った)
リュミナがいなかったら危なかった。
そう思えるほど、
場には安堵の空気が広がっていた。
だが──。
黒狼の“首”がふわりと浮き上がった。
『人にしてはよくやった』
『褒めてやろう』
『だが──』
『我らカイトリア様の眷属がそう簡単にやれると思うな』
全員が息を呑む。
『次会う時は食い殺してやろう。
特に──邪神の巫女。
いつ食い殺されるか、おびえて暮らせ』
そう吐き捨てると、
黒狼の首は飛び去っていった。
慌てて放った魔術や矢は、
すべて空を切る。
(……逃げられたか)
会社員だった俺が、
守るべきものを得て、
姪っ子たちと異世界冒険に出るなんて──
誰が想像しただろう。
だが今は、
守るべきものがここにある。




