おまけの俺、身代わりの少女を助けに行く
リュミナの表情は、
いつもの無邪気な笑顔ではなかった。
どこか怯えたような、弱い笑み。
「……ドラグニアの街から移動してる途中で、賊に襲われたの」
震える声。
「護衛の人たちが戦ってくれたけど……ダメで」
一瞬、言葉が詰まる。
「私……侍女のカレンナと服を交換したの」
「カレンナが、私の身代わりになって……捕まった」
(……っ)
「私は森に逃げたけど……結局捕まって、奴隷としてここに……」
リュミナの手が、強く握られる。
「シュウイチ……お願い」
顔を上げる。
涙をこらえた目。
「カレンナも助けて……!」
「助けてもらった私が言うの、ずるいってわかってる……でも……!」
「カレンナは、私の命の恩人なの……!」
「助けたいの……!」
俺はゆっくりしゃがみ込み、
リュミナと目線を合わせた。
「……どんな人だ?」
「私と同じ龍人で……少しだけ背が高くて」
「髪は赤で……すごく優しい人」
「角も……私と同じで、二本ある」
(角ありの竜人……目立つな)
「今どこにいるか、わかるか?」
リュミナは首を横に振る。
「賊は、“ドラグニア辺境伯を従わせるための人質”って言ってた」
「城にいるのか、軍のところなのか……わからないの」
(……面倒だな)
だが――
迷いはなかった。
「……任せろ」
リュミナが顔を上げる。
「潜入は慣れてきた」
「城も、軍も、両方探る」
「ライルたちにも動いてもらう」
「絶対に見つける」
リュミナの目が揺れる。
「……ほんと?」
「約束する」
一瞬の沈黙。
リュミナは小さく頷いた。
「……うん」
「シュウイチが言うなら、信じる」
俺はそっと抱き寄せ、
頭を撫でる。
「大丈夫だ」
「カレンナも、ちゃんと連れて帰る」
リュミナは胸に顔を埋めた。
「……ありがとう」
小さく震える声。
(……守る)
(この子も、そのカレンナって人も)
(絶対に)
◆
リュミナを抱き上げたまま、
アジトへ戻る。
扉を開けると――
「おいおい、帰る前に逢引か?」
ライルがニヤつく。
「リュミナが可愛いから仕方ないだろ」
言った瞬間――
「~~~っ!」
リュミナの顔が一気に真っ赤になる。
そのまま俺の首にぎゅっと抱きついた。
(……可愛すぎるだろ)
ロウガが吹き出し、
エルドは苦笑する。
「……で、真面目な話だ」
空気を切り替える。
「ファルドラ方面の軍の位置、把握してるか?」
ライルの表情が引き締まる。
「ああ。大体な」
「ドラグニア領方面は?」
「一番近いからな」
「今は領境手前で陣を張ってるはずだ」
(やっぱりか)
「……じゃあ、その中に“捕まった姫”がいる可能性は?」
ライルが目を細める。
「姫か……その情報は初耳だな」
「だが、調べる価値はある」
「こっちでも探らせる」
「頼む」
「任せろ」
エルドも頷いた。
「ドラグニアの情報は、我々にも重要だ」
その時――
「……シュウイチ」
リュミナの小さな声。
「カレンナも……助けてね?」
俺は頭を撫でる。
「当たり前だ」
「お前も、その人も助けて――」
「一緒に帰ろう」
リュミナは目を潤ませながら頷いた。
「……うん」
(絶対に助ける)
◆
「じゃあ、行く」
ライルが手を振る。
「気をつけろよ」
エルドが静かに言う。
「影の魔術……使いすぎるな」
「あれは危険でもある」
「わかってる」
リュミナが服を掴む。
「シュウイチ……ありがとう」
その声は、小さい。
でも確かに届く。
「任せろ」
最後にもう一度頭を撫でて――
影に沈む。
(やることは増えたな)
(カレンナの救出、王国の調査、美琴たちの保護)
(……全部やる)
影が揺れる。
城へと続く闇の中で――
俺は静かに決意を固めた。
「――次は、助ける番だ」




