おまけの俺、影で潜入を始める
影が揺れる。
足元から伸びた闇が、
ゆっくりと俺の身体を包み込んだ。
(影魔術……)
(これは、当たりだな)
視界が沈む。
音が遠のく。
そのまま――
影の中へと溶け込む。
次の瞬間には、
自室の影から静かに浮かび上がっていた。
(……使える)
気配はほぼ消失。
移動も自由。
(これなら、城の中枢にも入り込める)
小さく息を吐く。
(よし……今日はここまでだ)
◆
翌日。
俺は《遮断の外套》を発動しながら、
森の奥へと向かっていた。
目指すのは、獣人たちのアジト。
(影魔術……まだ慣れてないが)
(気配を消すには十分すぎる)
森を抜け、
隠された入口へ。
静かに扉を開けた――その瞬間。
「しゅういちっ!」
小さな影が、一直線に飛び込んできた。
「うおっ!?」
受け止める。
リュミナだった。
「おはよう、リュミナ。よく分かったな」
リュミナは満面の笑みで、
尻尾をぱたぱた揺らす。
「うん! シュウイチが来たってすぐ分かったよ!」
「……遮断してたんだけどな」
「でも見えたもん。シュウイチが入ってくるところ」
(……マジかよ)
《遮断の外套》すら無効。
(獣人の感覚、バグってるな……)
思わず苦笑する。
(……まあ、いいか)
リュミナを抱き上げたまま、奥へ進む。
◆
奥では、ライルとエルドが待っていた。
「来たか、シュウイチ」
「さて、続報を聞こうか」
ライルが腕を組む。
俺は一つ息を整えた。
「……結論から言う」
「王城は、かなりヤバい」
空気が変わる。
「まず一つ目――王と妃を見つけた」
「塔の最上階だ。全員、眠らされている」
「しかも……神の呪いだ」
ライルの目が細くなる。
「神の呪い? 断言できるのか」
「スキルで見た」
「ルミナス様由来の力だ」
「だから分かる。あれは別の神のものだ」
「……なるほどな」
「状態としては“時間停止”に近い」
「時間が進まない限り、起きない」
エルドが低く呟く。
「……完全に封じられてるってわけか」
俺は頷く。
「次に――王女アリア」
「……あいつ、多分操られてる」
ライルの眉がぴくりと動いた。
「操られてる?」
「言動が不自然すぎる」
「それに、黒衣の神官が常に張り付いてる」
「あれは“監視”だ」
「……あの女、昔は違った」
ライルが小さく吐き捨てる。
俺は続ける。
「それと――王族の子供」
「第2王女イリア、第3王女、王子」
「全員、行方不明扱いだ」
「……崩壊寸前だな」
空気が重くなる。
「で、ここからが本題だ」
ライルが視線を上げる。
俺は静かに言った。
「“魔法”と“魔術”は別物だ」
「魔法は神の加護」
「魔術は、世界の理を使う技術」
「……神に依存しない力、か」
「そうだ」
「つまり、神が敵でも使える」
沈黙。
ライルが小さく笑う。
「そうか、あれはそういう力だったのか」
俺はさらに踏み込む。
「王は、それに気づいてた」
「カイトリア神の危険性を、前からな」
ライルの目が見開かれる。
「王が……?」
「証拠がなくて動けなかった」
「神への反逆になるからな」
「だから、知識だけを残した」
「隠し図書館だ」
「……そんなものが」
「そこに、全部あった」
そして――
「影魔術も、そこで手に入れた」
ライルが息を吐く。
「……修一」
「お前、本当にとんでもないとこに踏み込んだな」
「まあな」
肩をすくめる。
「でも、やるしかないだろ」
「美琴たちを助けるために」
一瞬の沈黙。
そして――
ライルが笑った。
「それで十分だ」
「理由なんて、それでいい」
軽く肩を叩かれる。
「お前、いい奴だな」
(……なんだよ、それ)
少し照れくさくなる。
だが――
(悪くない)
確かに、そう思えた。
「――次は、もっと奥まで潜る」




