おまけの俺、影魔術に目覚める
魔術の基礎本を読み終えた俺は、
美琴の部屋を訪れた。
「美琴。この本を預かってくれ」
差し出したのは、魔術の基礎書。
「ひよりちゃんと悠真くんの訓練は、ここでまとめてやってほしい」
「わかった。叔父さん、任せて」
迷いのない返事。
頼もしい。
「修一さん、私も頑張ります」
ひよりが一歩前に出る。
「僕も……魔術、理解したいです」
悠真も続いた。
(……やっぱり、この三人は強いな)
飲み込みが早い。
覚悟もある。
「無理はするなよ」
それだけ言い残し、俺は部屋を後にした。
向かう先は――
隠し図書館。
◆
図書館は、相変わらず静かだった。
古い紙の匂い。
閉ざされた空気。
(魔術の基礎は……試してみたが)
手のひらに熱を集める。
そこまではできる。
だが――
(火、水、風、土……)
(どうやっても発動しない)
理屈は分かる。
だが、形にならない。
(向いてないのか……?)
その時だった。
視界の端に、“違和感”。
黒い背表紙。
他の本と違う。
まるで――影が染みついたような黒。
(……なんだ、これ)
手に取る。
《影魔術──闇に潜む者の技》
(影魔術?)
開いた瞬間――
(っ!?)
頭の中に、黒い情報が流れ込む。
霧のような、濃い何か。
視界が揺れる。
だが――
(……嫌じゃない)
むしろ。
(しっくりくる)
理解が、染み込む。
影に潜む。
影と影を繋ぐ。
影で気配を断つ。
影を操る。
(……なんだこれ)
(完全に俺向きじゃねえか)
思わず苦笑する。
(斥候から逃げられない運命か)
だが――
ページをめくるほどに、
確信に変わる。
(これなら、いける)
足元の影を見る。
意識を落とす。
影が――揺れた。
(……動いた!?)
さらに意識を沈める。
影が広がる。
絡みつく。
そして――
沈む。
自分の身体が、影へと溶けた。
(……これ、すごいな)
音が遠くなる。
気配が消える。
世界から切り離された感覚。
そして――
別の影から、浮かび上がる。
(移動……できるのか)
心臓が高鳴る。
(これなら……)
王城の奥。
誰にも見つからずに入れる。
王族の部屋。
隠された通路。
アリアの行動。
神の眷属の気配。
(全部、探れる)
拳を握る。
(使える……いや)
(これは武器だ)
本を閉じる。
だが、思考は止まらない。
(悠真を……ここに連れてくるべきか)
悠真は賢者。
魔法を使える。
理解力もある。
(魔術と魔法、両方扱えたら……)
カイトリア神の支配から、
抜け出せる可能性がある。
ひよりも、美琴も。
すでに魔術を使い始めている。
(あとは、繋げるだけだ)
だが――
(ここは“禁書庫”だ)
見つかれば、終わり。
(慎重にやるしかない)
影魔術の本を抱える。
そして、決意する。
(美琴たちは魔術を鍛える)
(俺は影で潜る)
(悠真をここに連れてくる)
(そして――)
(全部、暴く)
静かに、図書館を後にした。
「これで、誰にも止められない」




