おまけの俺、王女の運命を見届ける
翌朝。
「レネオス王が帰還された」との連絡が入った。
さらに──
「王の執務室に来るように」との呼び出し。
呼ばれたのは、召喚組の四人とリュミナ。
全員で部屋に入ると──
そこには、王と三人の后、イリア王女、ヴァルハイン夫妻。
そして中央には、膝をつくアリア王女の姿があった。
他の者はすべて排され、完全な密室。
重い空気が、部屋を満たしている。
やがて、レネオス王が口を開いた。
「……そろったようだな」
アルベルトが近衛へ命じる。
「全員、外へ。扉を閉め、誰も近づけるな」
「はっ!」
扉が閉まり、音が消える。
完全な静寂。
その中で──
レネオス王が、ゆっくりとこちらへ向き直り。
深く、頭を下げた。
「王国を救っていただき、感謝する」
一拍。
「そして……娘が迷惑をかけた。申し訳なかった」
その言葉に合わせるように、
その場にいた王族・重臣すべてが頭を下げる。
(……ここまでやるか)
王族がこれほどまでに頭を下げる。
それだけ、この件が重いということだ。
「頭を上げてください」
俺は静かに言う。
「謝罪はすでにいただいています」
「それでもだ」
レネオス王は顔を上げ、まっすぐ見据えてくる。
「最後まで、あなたたちに救われた」
「……」
その視線を受け、軽く息を吐く。
「……では、お受けします」
そして続ける。
「ですが優先すべきは、王国の立て直しとファルドラとの関係修復です」
「うむ」
レネオス王が深く頷く。
「ファルドラへの謝罪は、ガルド殿が到着し次第行う」
だが、そのまま言葉を続けた。
「しかし──」
視線が鋭くなる。
「あなたたちの処遇も、我らにとって重要だ」
「ありがとうございます」
一歩前に出る。
「では、今後の方針を教えていただけますか」
レネオス王は腕を組み、少し考え込んだ。
「褒章と、召喚の詫び……」
ゆっくりと口を開く。
「望みがあれば聞こう」
──今だ。
俺は核心へ踏み込んだ。
「では、一つ確認を」
視線をアリアへ向ける。
「アリア王女は、どうなさいますか?」
空気が凍りついた。
レネオス王は娘を見下ろす。
「……国を陥れた責任は、誰かが負わねばならぬ」
アリアは静かに目を閉じたまま、動かない。
(……覚悟はできてるな)
俺は一歩踏み出した。
「我々は、重い処罰を望みません」
視線をまっすぐ王へ向ける。
「神の干渉に、人が抗えるとは思えないからです」
さらに言葉を重ねる。
「もしすべての責任をアリア王女に負わせるのであれば──
我々への褒章と相殺を望みます」
一瞬の沈黙。
レネオス王の表情が歪む。
「……それは……」
その時だった。
「レネオスよ」
空気が震えた。
気づけばそこに──
ルミナス様が立っていた。
「今回の件はカイトの暴走。
そして、それを許した我の責任でもある」
静かに告げる。
「……済まなかった」
レネオス王が息を呑む。
「そ、その御姿は……まさか……」
イリアが真っ先に膝をついた。
「ルミナス様です!」
それを合図に、全員がひれ伏す。
ルミナス様は軽く手を振った。
「いいから、顔を上げなさい」
淡々と続ける。
「カイトは処分した。
その事実をもって──アリアを解放してほしい」
アリアが震える声で答える。
「……私は、無罪とは思っておりません」
拳を握りしめる。
「私の判断で、多くの人を苦しめました」
(……この人は、本当に逃げない)
俺は一歩前に出た。
「アリア王女殿下」
静かに告げる。
「命で償う必要はありません」
一拍。
「命を奪っても、何も変わりません」
レネオス王が目を閉じ、頷く。
「……その通りだ」
ゆっくりと娘を見る。
「アリア。お前の罪は重い。本来なら死罪だ」
アリアは目を閉じたまま、微動だにしない。
だが──
「しかし」
王の声が変わる。
「ルミナス様の取りなし、そしてシュウイチ殿らの嘆願により」
静かに宣告する。
「処罰を変更する」
一瞬の間。
「レオンハルトが成人するまで──
国のために働け」
言い切る。
「それをもって、罪とする」
アリアの体が震えた。
そして、深く頭を下げる。
「……はい。必ず……果たします」
その姿は──
罪人ではなく。
“背負う者”だった。
(……これでいい)
胸の奥で、静かに思う。
その直後。
「ガルド辺境伯、到着!」
という声が響いた。
扉が開き、ガルド辺境伯が入ってくる。
レネオス王は再び頭を下げた。
「ガルド殿。この度は……」
「事情は聞いている」
短く返す。
視線がアリアへ向く。
レネオス王が続ける。
「処罰は変更した」
説明を終えると、
ガルド辺境伯はしばらく沈黙し──
やがて息を吐いた。
「……ルミナス様のご意向であれば、異存はない」
静かに言い切る。
「我らが口を挟むことではない」
それで──すべてが決まった。
続いて、両国の関係についての話し合いが行われた。
「ファルドラには賠償を支払う。
占領地はすべて返還する」
「それでよい」
ガルドが頷く。
「我らも戦を望んだわけではない」
その言葉で──
戦争は、完全に終わった。
話し合いが終わった瞬間。
イリアが、堪えきれずアリアに抱きついた。
「姉さま……!」
涙声だった。
「死罪じゃなくて……本当に、よかった……!」
アリアは驚いたように目を見開き、
やがて、そっと妹を抱き返す。
「イリア……」
小さく息を吐く。
「私はこれから、国のために働く」
そして──
「……ごめんなさい」
震える声。
「あなたにも、国にも……」
イリアは首を振り、強く抱きしめた。
その姿は──
王女でも罪人でもない。
ただの、姉妹だった。
(……これでいい)
静かに目を閉じる。
(生きて償い、生きて未来を作る)
それが、一番だ。




