おまけの俺、巫女に導かれる
翌日。
昼頃、アリア王女から連絡が入った。
王とガルド辺境伯の双方から、
「明日到着する」との先触れが届いたらしい。
その報せで、王城は一気に慌ただしくなった。
迎えの準備で人が走り回り、空気が張り詰めていく。
そんな中──
俺たちは、のんびりと街へ出ていた。
目的地はひとつ。
元ルミナス様の教会──
現在はカイト教の本部だった場所だ。
調査はすでに終わっているらしいが、
「一応見ておきたい」と頼んだら、あっさり許可が下りた。
「まあ、ついでに街も見ておきたくてな」
そう言うと、リュミナが俺の袖をつまんで、にこっと笑う。
「シュウイチとお出かけなら、それだけで楽しいよ?」
美琴がくすっと笑った。
「リュミナちゃんはほんと叔父さん好きだよね」
「うん、楽しいよ。ミコトは楽しくない?」
「私も楽しいよ。街の空気、だいぶ明るくなったしね。ね、ひより」
ひよりは美琴の腕にぎゅっと抱きつきながら答える。
「うん。あのまま城にいても、やることなかったしね」
「ちょ、ひより、歩きにくいって」
「いいじゃん。デートみたいなものでしょ?」
「あ、ひよりいいなぁ……」
次の瞬間。
「ぎゅー」
リュミナが対抗するように、俺の腕に抱きついてきた。
(……いや、かわいいけど、歩きにくい)
苦笑しつつ周囲に目を配る。
だが、街の人々は俺たちを見ると、どこか安心したように微笑んでいた。
(……戦争が終わると、こんな空気になるのか)
「お、リュミナ。あの菓子、うまそうだな」
「どれ? ……あ、ほんとだ。おいしそう」
ちらっとこちらを見る。
「……シュウイチ?」
「はいはい。買うか。四つくれ」
「まいど!」
そんなやり取りを挟みながら、
俺たちはゆっくりと教会へ向かった。
街の空気は、昨日までの緊張が嘘のようにやわらかい。
──だからこそ。
その違和感に、すぐには気づけなかった。
しばらく歩き、目的地へ辿り着く。
元ルミナス様の教会。
外観は他の教会と大差ない。
だが──
中に入った瞬間、空気が変わった。
ひんやりと、重い。
そして目に入ったのは──
床に無造作に転がされた、ルミナス様の像だった。
リュミナが足を止め、ぽつりと呟く。
「……ひどい……」
「まあ、予想はしてたけどな」
俺は静かに答え、リュミナの頭をそっと撫でる。
「全部終わったら、ちゃんと戻しに来よう」
「うん。きれいにしようね」
小さく頷くリュミナ。
そのまま奥へ進んでいくと──
違和感が増していく。
そして、ある瞬間。
リュミナの歩き方が変わった。
迷いがない。
まるで、“知っている道”を進むように、まっすぐ奥へ。
「……リュミナ?」
声をかける。
だが、返事はない。
ただ、何かに引き寄せられるように進んでいく。
(……おかしい)
嫌な予感が走る。
「美琴、ひよりちゃん。リュミナを追う」
「うん、行く!」
三人で後を追う。
辿り着いたのは、一番奥の部屋だった。
その中央──
床の一部が、淡く光っている。
リュミナが無言で近づき、手をかざす。
次の瞬間。
ゴゴゴゴ……!
低い音とともに、床が割れた。
現れたのは──地下へ続く階段。
「……は?」
思わず声が漏れる。
だがリュミナは、迷うことなく階段へ足をかけた。
「ちょ、リュミナ!?」
慌てて追いかける。
長い、長い階段を降りる。
空気は冷たく、静まり返っている。
やがて辿り着いた先には──
巨大な扉があった。
そこに刻まれているのは、ルミナス様の紋章。
リュミナは、その前で立ち止まっていた。
「リュミナ、大丈夫か?」
声をかけると、
「……ん?」
振り返る。
「シュウイチ? ここ……どこ?」
(……戻った?)
「教会の地下だ。リュミナがここまで来たんだが……覚えてないのか?」
「……うん」
首をかしげるリュミナ。
どうやら、完全に無意識だったらしい。
周囲を見渡すと、
扉の一部が淡く光っていることに気づく。
(……ルミナス様の紋章か)
「悪いものじゃないとは思うが……」
一応、振り返る。
「リュミナは後ろで美琴たちと一緒にいてくれ」
「うん。シュウイチ、気をつけてね」
その言葉を聞き、俺は頷く。
そして──
ゆっくりと扉に手をかけた。
(この先にあるのは……なんだ)
ルミナス様の秘密か。
それとも──
まったく別の“何か”か。
重い音を立てて、扉が開いていく。




