賢者は姫との未来を語る
「それと──」
一度区切ってから、口を開く。
「召喚された勇者を含めた五人ですが……
元の世界に帰る目処が立ちました」
その言葉に、
アリア王女は安堵したように息をつき、
イリアは──一度悠真を見てから、静かに視線を落とした。
(……ああ、そういうことか)
察しつつ、続ける。
「それに加えて、ルミナス様からスキルをいただきまして。
この世界と元の世界を行き来できるようになりました」
軽く肩をすくめる。
「悠真くんも、帰ってもまた来られるぞ」
その瞬間。
イリアの顔がぱっと上がり、
悠真を見る。
そして──
花が咲いたように笑った。
(……いや、その表情、王族的に大丈夫か?)
ちらりと周囲を見る。
アリア王女は、どこか微笑ましいものを見るように穏やかに微笑んでいる。
――その隣で、オフィーリアさんは眉間に深い皺を寄せ、明らかに何かを言いたげな顔をしていた。
(あっ……これはあとで確実に説教コースだな)
心の中で手を合わせつつ、話を戻す。
「ですので、そこまで気にする必要はありません。
ただ、今後もこちらに来ることがあると思いますので──
街への出入り許可をいただけると助かります」
「もちろんです」
アリア王女が即答する。
「すぐに手配いたします」
「助かります。あとは……
明日以降、ガルド辺境伯とレネオス陛下次第ですね」
「ええ」
アリア王女が頷く。
「本日は城内に部屋を用意しております。
会談が終わるまで滞在していただけますか?」
「問題ありません。
向こうの時間は調整できるそうなので、数日滞在しても支障はありません」
「ありがとうございます。では──」
「部屋には私が案内しますわ!」
イリアが勢いよく手を挙げた。
が、その直後。
「イリア姫様」
オフィーリアさんの声が、空気を凍らせる。
「姫様には王族としての振る舞いに課題がございます。
すぐに矯正いたしますわ。さぁ、こちらへ」
「えっ、ちょ、オフィーリア先生!?
そんな引っ張らなくても……!」
「こういうものは“即時対応”が肝要です」
ぐいっと腕を掴まれ、
「ユウマ様、皆様のご案内はお任せしますわ」
「は、はい……」
そのままイリアはずるずると引きずられ、
部屋の外へ消えていった。
(……うん。完全に説教フルコースだな。頑張れ)
Side:悠真
みんなを部屋に案内し終えたあと、
本当はそのまま図書室に行こうと思っていた。
でも──
(さすがに、放っておけないよな……)
イリアさんの部屋を探していると、
ちょうどオフィーリアさんが部屋から出てきた。
僕を見るなり、扇子で口元を隠して微笑む。
「後は頼みましたわ」
小さく、意味深に続ける。
「姫様、少々落ち込んでおられますので、
慰めて差し上げてくださいませ」
そして、少し間を置いて──
「た・だ・し」
声が低くなる。
「手を出さないように、お願いいたしますわ」
「は、はい!」
思わず背筋が伸びる。
(いや、そんなことしないよ……!?)
深呼吸をしてから、扉をノックする。
「悠真です。イリアさん、入っていい?」
「……どうぞ」
声が、少し沈んでいる。
(うわ……結構しっかりやられたな)
「失礼します」
扉を開けると──
椅子に座り、ぐったりとうなだれているイリアの姿があった。
まるで、燃え尽きた後のようだ。
「だ、大丈夫……?」
「……怒られちゃった」
ぽつりと呟く。
「王族らしくないって……
もっと感情を抑えなさいって」
「僕は、そのままのイリアさんがいいと思うけど」
素直に言う。
「喜怒哀楽がはっきりしてて……その方が、かわいいし」
イリアの肩がぴくっと動く。
「……でも、王族としてはダメなんだって」
小さくため息をつく。
「まぁ、練習するしかないんだけどね……」
少しの沈黙。
そして、イリアが顔を上げる。
「ねえ」
まっすぐ見てくる。
「帰っても……また会えるの?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……向こうに、好きな人とかいるの?」
(……そこ!?)
少し驚きつつも、答える。
「その話、僕もさっき聞いたばかりで……」
正直に言う。
「でも、向こうに好きな人はいないよ」
視線をそらさずに続ける。
「戻れるなら……またこっちに来たい」
少しだけ笑う。
「イリアさんと話すの、楽しいし」
イリアの指先が、ぎゅっと握られる。
僕はさらに言葉を重ねた。
「それに、向こうに戻ってもただの学生だしね」
苦笑する。
「せっかくなら、こっちで魔術を学びたいし……」
少し考えてから、続ける。
「将来的には、この国で仕事をするのもいいかなって思ってる」
イリアの肩が大きく揺れた。
「そうすれば──」
言葉が、自然と出てしまう。
「イリアさんの近くにいられるかもしれないし」
一拍。
「……守れるかもしれないし」
(……あ)
言ってしまった。
一気に顔が熱くなる。
(やばい、今の完全にアウトだろ……!?)
慌てて顔を上げる。
謝ろうとした、その瞬間──
イリアは真っ赤な顔でそっぽを向いていた。
「……あ、ありがと」
小さな声。
「ちゃんと……考えてくれて」
声が少し震えている。
でも、その中に確かな嬉しさが混じっていた。
(……やっぱり)
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
(この人、ほんとかわいいな)




