おまけの俺、平和の始まりを感じる
翌朝。
アジトで目を覚ました俺は身支度を整え、
先に食堂へ向かった。
しばらくして──
リュミナ、美琴、ひよりちゃんが
順に顔を出す。
「おはよう」
「シュウイチ、おはよう」
「おはよう、おじさん」
「おはようございます」
軽く挨拶を交わし、
朝食をとりながら今日の予定を確認する。
「今日は街の様子を見てから、城に行こうと思うんだが、いいか?」
「うん!」
「了解」
「わかりました」
「店が開く頃に出て、昼をどこかで済ませてから城に向かおう」
「いいよ〜」
美琴がふと思い出したように言う。
「悠真くん、ちゃんとイリアさんと会えてるかな?」
ひよりが即答する。
「会えてはいると思うけど……ずっと一緒ってわけにはいかないんじゃない?」
俺は苦笑する。
「というか、あいつ普通に図書室にこもってそうだぞ」
「「あーーー……」」
三人の声が綺麗に揃った。
身支度を整え、街へ出る。
向かったのは──
この前リュミナが気に入った菓子屋だ。
「あ、このお菓子!
こないだ買ってきてくれたやつだよね。おいしかった!」
リュミナが嬉しそうに声を上げる。
店員は一瞬、リュミナの耳に視線を向け、
わずかに身を固くしたが──
すぐに表情を緩めた。
「お嬢ちゃん、気に入ってくれたかい?
じゃあこっちもどうだ。これもなかなかいけるぞ」
リュミナが俺と菓子を交互に見る。
(……かわいいな)
「リュミナ、いただいていいぞ」
そう言ってから店員へ向き直る。
「じゃあ、とりあえず前と同じのをくれ」
リュミナはさっそく頬張りながら、
「これ、おいしいよ!」
と満面の笑みを見せた。
「……じゃあ、それも追加で」
店員が豪快に笑う。
「毎度!
嬢ちゃん、いい食べっぷりだな!」
美琴とひよりもそれぞれ受け取り、
リュミナと一緒に食べ始める。
その様子を見て、店員は少しだけ声を潜めた。
「……今朝な、獣人との戦争が終わったって通達が出たんだ」
「ああ」
「その直後に獣人の嬢ちゃんが来たもんだから、
つい警戒しちまってな。悪かった」
そう言って、追加の菓子を差し出してくる。
「これはお詫びだ」
「気にするな。ありがとな」
受け取りながら答える。
「……でも、戦争が終わったのはありがたいな」
「ああ。やっぱり平和が一番だ」
「だな」
横ではリュミナが、そんな会話など気にする様子もなく、
幸せそうに菓子を頬張っている。
(……こういう日常が戻るのは、悪くない)
店を後にし、城へ向かう。
昨日までの緊張が嘘のように、
街には穏やかな空気が流れていた。
兵士の姿も減り、
人々の表情にもどこか余裕がある。
途中で昼食を済ませ、城門へ向かうと──
門番が丁寧に頭を下げた。
「聖女様、聖騎士様とそのご同行の方と伺っております。
ご案内いたします」
そのまま城内へ通される。
向かった先は──
アリア王女の執務室だった。
(ここ……前は近づけなかった場所だな)
扉が開く。
「聖女様、聖騎士様、他二名をお連れしました!」
「ご苦労。下がりなさい」
アリア王女の声。
兵が退出し、部屋には──
アリア王女、イリア、オフィーリアさん、そして悠真がいた。
オフィーリアさんが微笑む。
「ご苦労様。少し遅かったですわね」
「街の様子を見てきました。
終戦の通達も出ていて、安心しました」
「ええ。朝には出しましたわ。
前線にも伝令を走らせています」
「王様はどのくらいで戻られそうですか?」
「順調なら、明日には到着されるでしょう」
「ガルド辺境伯も同じ頃に来るはずですし……
うまくまとまるといいですね」
オフィーリアさんがくすっと笑う。
「神様の後押しもあるのですから、なんとかなりますわ」
アリア王女が一歩前に出る。
そして、深く頭を下げた。
「シュウイチ殿。
この度は王国、そして王族を救っていただき、心より感謝申し上げます」
「いえ。レネオス陛下からの依頼を果たしただけです。
無事終わって何よりです」
アリア王女は続ける。
「そして……シュウイチ殿、ミコト殿、ヒヨリ殿」
その声に、重みが宿る。
「我々の都合で召喚してしまったこと、
そしてシュウイチ殿を追放し、命まで狙ったこと──」
一度、息を止める。
「その責任は、この命をもって──」
「姉さま!」
イリアが慌てて遮る。
だが、俺は静かに首を振った。
「アリア王女殿下」
まっすぐ見据える。
「その命で、誰かが救われるなら考えます」
一拍置いて続ける。
「ですが──命を差し出しても、何も変わりません」
アリア王女が息を呑む。
「それなら、その命を“救うため”に使ってください」
はっきりと言い切る。
「俺は……生きて償ってほしい」
静寂。
「シュウイチさん……」
後ろから声がかかる。
振り返る。
「いいよな?
リュミナ、美琴、ひよりちゃん……それに悠真」
「うん」
「賛成」
「そうですね」
「……僕も、それがいいと思います」
四人が頷く。
アリア王女の目に、静かに涙が浮かんだ。




