賢者は王女の覚悟を受け止める
Side:悠真
城へ急ぐと──
ちょうど馬車が城門へ到着したところだった。
その窓から、
見慣れた顔が覗く。
「……イリアさん」
振り返ったイリアさんが、
僕を見つけた瞬間──
ぱぁっと表情を明るくした。
「ユウマ様〜!」
大きく手を振ってくる。
(……かわいい)
思わずそんな感想が浮かんでしまい、
周囲の衛兵の視線に気づいて、慌てて姿勢を正す。
「イリア様、今行きます!」
《ウィンドムーブ》を発動。
風をまとい、一気に城門まで駆け抜けた。
門の前に降り立つと──
心臓の鼓動が、やけにうるさい。
「イリア様、無事に終わりました」
「ユウマ様……」
ほっとしたように微笑む。
「姉も助けていただき、本当にありがとうございます」
そして振り返る。
「アリア姉さま。こちらが──
姉さまを助けてくださったユウマ様です」
アリア王女が、深く頭を下げた。
「賢者ユウマ殿……ありがとうございました。
そして……申し訳ありません。私は──」
「アリア王女殿下」
言葉を遮る。
「謝罪はあとで大丈夫です。
まずは中に入りましょう」
一度、視線をイリアさんへ向ける。
「イリア王女殿下。
僕も同行しますので、先に──」
そこまで言った瞬間。
なぜか、イリアさんがむぅっと頬を膨らませた。
「……わかりましたわ」
少し不機嫌そうな声。
「姉さま、まず部屋に戻りましょう。
ユ・ウ・マ・様もご一緒に」
(えっ……なんで怒ってるの?)
心当たりがなくて戸惑いながらも、
僕は二人の後ろについて城内へ入った。
(……もしかして、“王女殿下”って呼んだのがダメだった?)
そんなことを考えながら、
イリアさんの背中を追いかけた。
執務室に入ると、
イリアさんはすぐに振り返った。
「アリア姉さまとユウマ様、オフィーリア様以外は下がってください」
メイドも護衛も、静かに頭を下げて退出する。
扉が閉まると、
イリアさんは軽く息をつき、表情を引き締めた。
「これで話しやすい環境は整いましたわ。
ただし──変なことを言い始めたら止めますので」
アリア王女は、苦笑しながら頷いた。
「ええ……お願いね、イリア」
そして、再び僕に頭を下げる。
「ユウマ殿。改めて──」
「頭を上げてください」
少しだけ強めに言う。
「もう終わったことです」
アリア王女は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、迷いがなかった。
「あなた方を無理やり召喚し、
ファルドラへ戦を仕掛け、
多くの民に被害を出しました」
静かな声。
「それを決断したのは……紛れもなく、わたくしです」
(……強い人だ)
そう思った。
逃げていない。
だからこそ──
僕は首を振る。
「アリア王女は、カイトに操られていたと聞いています」
言葉を選びながら続ける。
「カイトはルミナス様に捕らえられ、裁きを受けました。
なら……王女は被害者でもあるんじゃないですか?」
アリア王女は静かに目を伏せる。
「……そうかもしれません」
だが──
すぐに顔を上げた。
「ですが、王国の為政者として、責任を負う者は必要です」
その声は揺らがない。
「王族が宗教に傾倒し、戦争を引き起こした。
その罪は……重いのです」
(……やっぱり、この人は強い)
僕は一度息を吐き、
オフィーリアさんへ視線を向けた。
「オフィーリア様。
防ぐことはできたと思いますか?」
即答だった。
「神の力は、魔術では防げません。
ましてアリア姫様は魔術の素養がございませんでした」
(……だよな)
僕は頷き、アリア王女に向き直る。
「僕は──」
少しだけ笑う。
「イリア王女殿下と、また仲のいい姉妹に戻ってくれれば、それで十分です」
肩をすくめる。
「細かい判断は……王様に任せればいいんじゃないですか」
その言葉に──
イリアさんがぱっと顔を輝かせた。
「ユウマ様、ありがとうございます!」
ぐっと一歩近づく。
「ほら姉さま。ユウマ様もこう言ってくださっているのですから、
悩むだけ損ですわ」
「えっと……イリア王女殿下?」
「“王女殿下”は不要です」
ぴしゃりと言い切る。
「……え、イリアさん?」
思わず戸惑う。
「それはさすがに……」
オフィーリアさんがくすっと笑った。
「イリア姫様は、ずいぶんとおおらかに育たれましたわね。
もう少し王族としての礼儀を学ばれた方がよろしいかと」
その時だった。
ぽろり、と。
アリア王女の目から涙がこぼれた。
「アリア王女殿下……?」
アリアは涙を拭いながら、
そっとイリアの肩に手を置く。
「イリア」
優しく、けれどしっかりとした声で言った。
「お父様が戻られるまで──
私がきちんと教育しますわ」
「……え?」
イリアさんの顔が、ぴたりと固まる。
(あ……これ)
完全に逆襲だ。
僕はそっと視線を逸らした。




