おまけの俺、巫女の願いを受け入れる
イリアさんたちの乗った馬車が、ゆっくりと遠ざかっていく。
その中から聞こえてくるアリア王女の声は──
どこか凛としていて、まっすぐで。
(……最初に会った時とは、別人みたいだな)
気高く、責任感が強い王女。
だが同時に──
(あの人のせいで、美琴たちは召喚されて、
家族と引き裂かれたのも事実だ)
「責任はない」なんて、軽く言える話じゃない。
……けど。
(リュミナに会えたことを考えると……)
俺にとっては、全部が“マイナス”だったとも言えない。
(こういうややこしい話は……)
(ルミナス様に丸投げでいいんじゃないか?)
そう思った瞬間──
「呼んだ?」
「うわっ!?」
思わず声が裏返る。
「び、びっくりした……!
考えただけで呼んだつもりはありません!」
ルミナス様は、くすくすと楽しそうに笑った。
「大丈夫大丈夫。
王女のことは、私からもちゃんと説明しておくから」
「……お願いします」
軽い口調なのに、不思議と安心できる。
「それより──」
ルミナス様は少しだけ真面目な顔になった。
「あなたの願いは、“美琴たちを元の世界に返すこと”でいいのよね?」
「はい」
迷いなく答える。
すると──
「じゃあ、代わりに一つお願いを聞いてくれない?」
「ルミナス様の……お願い?」
少し意外だった。
「四つ目のスキルをあげる代わりに──
うちの巫女を、待っていてほしいの」
「巫女って……リュミナのことですか?」
「そう」
にこりと笑う。
「リュミナちゃんね、あなたのことが大好きなのよ」
「……はい」
知ってる。
「だからね、ずっと一緒にいたいって願ってる」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
「そこで提案なんだけど──
あなたの“時”を、少しだけ止めてもいいかしら?」
「……時を止める?」
「封印とかじゃないわよ?」
軽く手を振る。
「リュミナちゃんが成人するまでの十年間、
あなたは“年を取らない身体”になるの」
「……不老不死、ですか?」
「まぁそんな感じね」
少しだけ悪戯っぽく笑う。
「その後はちゃんと年を取るように、
もう身体の方は調整しておいたから」
「……調整って」
嫌な予感がする。
「つまり……もう寿命は伸びてるし、
さっきの戦いも実は死ななかったってことですか?」
「そういうことね♪」
「…………」
俺はその場に膝をつき、四つん這いになった。
「……で、四つ目のスキルは?」
「影移動の応用で、世界間移動できるようにしちゃった」
「……え?」
「てへっ」
軽い。
軽すぎる。
「……じゃあ、いつでも元の世界に帰れる?」
「そこはちょっと待ってね」
指を立てる。
「最初に帰るときだけ、時間を“召喚された瞬間”に合わせるから」
「……つまり」
「向こうでは、時間がほとんど進んでないってこと」
「……なるほど」
少しだけ安心する。
「このこと、美琴たちやリュミナに話してもいいですか?」
「いいわよ〜」
あっさりOK。
「じゃあもう一つ」
気になっていたことを聞く。
「カイトは、どうなったんですか?」
ルミナス様の表情が、少しだけ引き締まる。
「神々の話だから、全部は言えないけど──
修一は特別ね」
そう前置きして、静かに続けた。
「カイトは元々、“転移者”だったの」
「……え?」
「本来なら、元の世界に帰る資格があった」
「……でも?」
「邪神を取り込んで、“神”になった」
淡々とした声。
「神になるとね──元の世界の情報が全部消えるの」
「……全部?」
「そう。帰る場所がなくなるの」
静かに言う。
「だから、もう戻れない」
「……」
少し、胸が重くなる。
「そのまま放置もできないから、
“輪廻の環”に戻したわ」
「輪廻……」
「記憶を消して、魂を循環させたの。
今頃どこかで、別の命として生きてるはずよ」
「……もう会うことは?」
「ないわね」
きっぱりとした答え。
「邪神の方は?」
「神力抜いて石にして、創造神様の庭に置いてある」
(……スケールが違いすぎる)
頭が追いつかない。
「最後に一つ」
現実的な確認をする。
「日本に戻っても、スキルは使えますか?」
「使えるわよ」
即答。
「あなたたちは、向こうでも魔術もスキルも使える」
「助かります」
「ただし──」
ルミナス様の目が少しだけ鋭くなる。
「やりすぎると、向こうの神様に目をつけられるわよ?」
「……了解です」
「その辺はちゃんと伝えておいてね」
「はい」
ルミナス様は満足そうに頷いた。
そして、にっこり笑う。
「で、巫女のお願いは聞いてくれる?」
「……もともと残るつもりでしたし」
肩をすくめる。
「行き来できるなら、問題ないです」
「よかった〜」
ぱっと表情が明るくなる。
「悠真くんにも、何かあげた方がいいかしらね」
「悠真なら、何もなくてもやれますよ」
俺は笑った。
「見守って、ちょっとだけ“いい目”を出してやってください」
ルミナス様は口元を隠して、くすっと笑った。
「……いかさま、ね」
「神様が言うと怖いですね」
「大丈夫よ、バレないから」
二人で、つい笑ってしまう。
静まり返った戦場の中で──
その笑いだけが、やけに軽く響いた。
(……神様と“いかさま”って言葉、いいのか?)
(まぁ……ルミナス様だしな)
そう思いながら、
俺は小さく息を吐いた。




