おまけの俺、償いの始まりを見届ける
ひとまず──
場は落ち着いた。
イリアさんの方も、どうやら大丈夫そうだ。
アリア王女はすでに目を覚まし、
その傍には、イリアさんがしっかりと寄り添っている。
(……よかった)
戦いは終わったが、
本当に大変なのは、ここからだ。
しばらくすると、エルドたちが戻ってきた。
「街の者に頼んで、馬車を手配してきた」
振り返ると、数台の馬車が並んでいる。
「助かる」
俺は軽く手を上げて礼を言った。
近衛騎士や神谷は──
まとめて一台の馬車へ。
意識はまだ戻っていないが、命に別状はない。
(……目が覚めたときが大変だろうな)
苦い気持ちになるが、今は後回しだ。
別の馬車には、
勇者に取り込まれていた少女たちが乗せられている。
美琴たちが、その世話についていた。
その時──
アリア王女とイリアさんが、そちらへ向かっていくのが見えた。
(……あっちは、あっちで大事な話になるな)
俺は少し距離を取り、
その様子を静かに見守った。
Side:イリア
少女の顔を見た瞬間、
思わず声が漏れた。
「……リナ? ルナ……?」
信じられない。
「どうして……ここに……?」
美琴さんが首をかしげる。
「お知り合いですか?」
「ええ……ナハルド家の双子の令嬢です」
息を整えながら答える。
「現在、諜報部長を務めている方のご息女で……
王都でも名の知られた家の子たちです」
その言葉に──
隣のアリア姉さまが、ゆっくりと顔を伏せた。
「……この子たちは」
震える声。
「イリアの……身代わりとして……
勇者に与えたのは、私よ」
胸が、締めつけられる。
「私は……なんてことを……」
崩れそうになる姉さまの手を、
すぐに握った。
「姉さま」
強く、言い聞かせるように。
「今は……まず落ち着きましょう」
その目を、まっすぐに見る。
「王城に戻って、お父様をお待ちしましょう」
アリア姉さまは、不安げにこちらを見た。
「……お父様は……無事なの?」
震える声。
「私は……お父様にも、お母様にも……」
「大丈夫です」
はっきりと言い切る。
「お父様もお母様も、ご無事です」
少しだけ、柔らかくなるように。
「……あちらにいるシュウイチ様が、呪いを解いてくださったのです」
アリア姉さまの瞳が揺れる。
「私の……呪いも……?」
「はい」
小さく頷く。
「姉さまも、シュウイチ様に救われたのです」
その言葉に──
アリア姉さまは、言葉を失った。
「……シュウイチ様……」
かすれた声。
「勇者召喚に巻き込み……
それどころか……私は……」
拳が震える。
「殺そうとまで……したのに……」
私は、首を強く振った。
「姉さま」
声を少しだけ強くする。
「今は、気持ちを落ち着けることが先です」
そして、少女たちへ視線を向ける。
「まずはこの方たちを……無事にお戻ししなければなりません」
御者に向き直る。
「王城へ向かってください」
「承知しました」
短い返事。
馬車の準備が整う。
振り返り、美琴さんたちへ声をかける。
「ミコト様たちは、ご一緒に?」
美琴さんは軽く手を振った。
「私たちは叔父さんと一緒に行くよ。
オフィーリア様もお願いね」
「わかりました」
深く頷く。
「王城で、お待ちしております」
馬車がゆっくりと動き出す。
私はアリア姉さまと、少女たちのそばに座り──
そっと、その手を握った。
(……大丈夫)
(全部、やり直せる)
そう、自分に言い聞かせるように。
揺れる馬車の中で、
静かに前を見つめた。




