おまけの俺、王女の覚醒を見届ける
戦いが終わると同時に、ライルがすぐに動いた。
「ガルド様へ報告だ。ロウガ、お前のところから一人走らせろ」
「……シロガネ、行け」
「応!」
シロガネは短く答えると、そのまま風のように駆け出していった。
その背を見送りながら、オフィーリアさんが静かに呟く。
「……陛下にも伝令を出さなければなりませんね」
「そうですね。顔が割れている俺が行きます」
ライルが一歩前に出る。
「頼めるか?」
「ああ、任せてくれ」
「よろしくお願いします」
オフィーリアさんが穏やかに頷いた。
ライルが出発しようとした、その時──
「イリア王女をお連れしました!」
コマチがイリアさんを連れて戻ってきた。
「……あれ? もう終わっちゃいましたか?」
リュミナが元気よく手を挙げる。
「ルミナス様が終わらせちゃった!」
「がーーーん!
私の見せ場はどこに行ったんですかぁ!?」
コマチが大げさに崩れ落ちる。
ロウガがその頭を掴んで引きずった。
「戦が早く終わるのは良いことだ。
お前には“その後”の方が大事だと教えてやる」
「ロウガ隊長、それはあんまりですぅぅ……!」
そんなやり取りの横で、
イリアさんがオフィーリアさんのもとへ駆け寄った。
「オフィーリア様……姉さまは!?
アリア姉さまは無事なのですか!?」
「ええ」
オフィーリアさんは穏やかに頷く。
「神の呪いは解けております。
あとは目を覚ました時、落ち着いて話ができるように──
イリア王女に来ていただきました」
「……ありがとうございます」
イリアさんは深く頭を下げると、
すぐにアリアのもとへ駆け寄り、そっと手を握った。
少し離れた場所では──
「悠真くんはあっちね。
近衛と神谷くんを見てて。こっちは見ちゃダメだからね?」
美琴がぴしっと指をさす。
「こちらは私たちが見ておきますから」
ひよりも優しく微笑む。
「はい……」
悠真が小さくため息をついた。
(近衛はいいとして……神谷の世話か……)
(正直やりたくない……)
(でも任せるわけにもいかないし……)
肩を落としながら歩き出す。
その背に声をかけた。
「悠真くん、手伝う」
振り返った顔が、ぱっと明るくなる。
「修一さん……ありがとうございます」
(ああいうのは一人じゃきついだろ)
(……助かります)
小さく頷き合う。
戦いは終わった。
だが──
やることは山ほどある。
それでも。
(……仲間がいるなら、なんとかなるか)
静かに、そう思えた。
Side:イリア
姉さまが……無事で、本当によかった。
どうか──
目を覚ました時には、
“元の姉さま”に戻っていますように。
そう願いながら、そっと見守る。
やがて──
まぶたが、かすかに震えた。
ゆっくりと、開く。
「……アリア姉さま。
姉さま、私がわかりますか?」
「……ん……イリア……?」
その声に、胸が熱くなる。
「おはよう……ここは……?」
(……戻ってる)
「姉さま、どこまで覚えていますか?」
「どこまで……?」
その瞬間。
姉さまの顔から、血の気が引いた。
「私は……私は……」
次の瞬間──
「……あああああああ!!」
叫び声。
「私は……なんてことを……!」
頭を抱えて震える姉さま。
(いけない……!)
私はとっさに、その身体を抱きしめた。
「姉さま……もう終わったの」
優しく、背中を撫でる。
「悪い夢は終わったの。
全部……終わったの」
震える身体を、しっかりと抱きとめる。
「そこにいるユウマさまたちが……
全部、終わらせてくれたの」
呼吸を合わせる。
「だから……大丈夫。
ゆっくり息をして」
横ではオフィーリア様が、静かに魔術をかけてくださっている。
周囲を見ると──
ユウマさまたちは、
こちらに気を配りながらも、
あえて視線を外してくれていた。
(……優しい)
胸が、少しだけ温かくなる。
(……でも今は)
「イリア様」
オフィーリア様の声。
「今は、アリア殿下に集中なさい」
「……わかっています」
小さく返す。
しばらくして──
姉さまの震えが、少しずつ収まっていく。
「……イリア」
「はい」
「もう……大丈夫よ」
小さく息を吐く。
「離してもらえるかしら」
「……姉さまは、どこにも行きませんよね?」
不安が、こぼれる。
姉さまは、静かに頷いた。
「ええ。行かないわ」
そして、はっきりと言う。
「今回の責任を、取らなければならないもの」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「イリア」
まっすぐに見つめられる。
「王族として……罪人を捕えなさい」
一瞬、言葉を失う。
「この私を──罪人として」
「違います!」
思わず声を上げる。
「姉さまは操られていただけで──」
「いいえ」
はっきりと遮られる。
「王族が操られること自体が、罪です」
その瞳は、涙で揺れながらも──
揺るがない。
「この騒動を起こした者が裁かれないなど……あり得ません」
静かに告げる。
「さあ……捕えなさい」
(……姉さま)
その時。
「アリア殿下」
オフィーリア様が、穏やかに口を開いた。
「罪を認め、逃げぬ者を、今すぐ捕える必要はございません」
優しい声。
「まずは、共に城へ戻りましょう」
姉さまが、はっとしたように顔を上げる。
「……オフィーリア様」
小さく微笑む。
「お久しぶりでございます」
そして、静かに息を吐いた。
「……そうですね。
嫌がる妹に押し付けるのは、姉として美しくありませんわね」
少しだけ、いつもの姉さまが戻る。
「オフィーリア様の仰る通りにいたします」
その言葉に──
胸がいっぱいになる。
(……姉さまが、戻ってきてくれた)
涙をこらえながら、
私はそっと、その手を握り直した。




