おまけの俺、脱出を提案する
美琴の部屋の前で、静かに息を整える。
夜の城は、やけに静かだった。
「美琴、起きてるか?」
小声で呼びかける。
「修一だ」
すぐに返事が返ってきた。
「叔父さん? うん、大丈夫、起きてるよ」
少し眠たそうだが――安心した声だった。
「少し話がある。入ってもいいか?」
「ちょっと待って……今開けるね」
扉が開く。
その隙間に滑り込むように中へ入り、すぐに閉めた。
「こんばんは」
「こんばんは、叔父さん。どうしたの?」
周囲を軽く確認してから、本題に入る。
「連絡用の魔道具を持ってきた」
「勇者たちが遠征に出たり、俺が城を離れた後でも話せるように、な」
手渡すと、美琴は目を丸くした。
そして――
ぱっと顔が明るくなる。
「すごい……!」
「さすが叔父さん、ほんと頼りになる!」
勢いよく抱きついてくる。
そのまま、軽く頭を撫でる。
「これに魔力を流せば使える」
「ただし――これは敵国、ファルドラの技術だ」
美琴の目が引き締まる。
「ひよりと悠真には共有していい」
「でも、それ以外には絶対に見せるな」
「バレたら危険だ」
「うん。絶対に守る」
真剣な表情で頷く。
「で、そっちはどうだ?」
美琴は少しだけ表情を曇らせた。
「毎日訓練だけ」
「ひよりと悠真はちゃんとやってるけど……」
「勇者は?」
「部屋にこもってる」
ため息まじりに言う。
「メイドさん呼んで遊んでるみたい」
(……予想通りだな)
「美琴たちは大丈夫か?」
「私は平気」
「でも、ひよりのところには貴族が何人か来たって」
「ひよりちゃんは?」
「部屋から出ないで、全部断ってる」
(……危ないな)
少し間を置いて、声を落とす。
「……実はな」
「王女の部屋で話を聞いた」
美琴が息を呑む。
「俺は、勇者たちが遠征に出たタイミングで処分される予定らしい」
「……え?」
「具体的な方法は分からない」
「だが、このままじゃ確実にやられる」
「だから、逃げる」
はっきり言い切る。
「今、逃げ先は確保しつつある」
「行き先はファルドラだ」
美琴の目が揺れる。
「もし……」
少しだけ言葉を選ぶ。
「逃げたいなら、一緒に連れていく準備をする」
沈黙。
やがて、美琴は小さく頷いた。
「……わかった」
「ひよりにも伝えておくね」
少しだけ笑う。
「叔父さんがいると、安心できる」
「任せろ」
軽く返す。
「あとで魔道具のテストする」
「もう少し起きててくれ」
「了解!」
少し元気な声が戻る。
「じゃあな」
「うん、またね」
扉を閉める直前――
美琴が小さく手を振っていた。
(……守るべきもの、増えたな)
◆
自室に戻る。
すぐに魔道具を起動する。
淡い光が広がる。
空気が震えた。
「シュウイチだ。聞こえるか?」
『聞こえるよ、叔父さん!』
美琴の声。
その直後――
『修一さん、ひよりです』
「ひよりちゃんも一緒か」
『うん。使い方、覚えておこうと思って』
「いい判断だ」
声を少し落とす。
「この魔道具は敵国製だ」
「絶対にバレるな」
『わかった』
『……わかりました』
ひよりの声は、少し硬い。
「……何かあったな?」
少しの沈黙。
『……“俺の嫁になれ”とか……』
『“俺のものになれ”とか……』
声がわずかに震える。
『私は、物ですか?』
(……やっぱり来たか)
「その反応ができるなら大丈夫だ」
落ち着いた声で返す。
そして――
少しだけ間を置く。
「俺は、この国から消される可能性がある」
『……!』
空気が張り詰める。
「だから、逃げる準備をしてる」
「ひよりちゃんも、限界が来たら迷わず来い」
「一人で抱え込むな」
静かな声が返ってくる。
『……ありがとうございます』
『本当にダメになったら……頼ります』
「それでいい」




