おまけの俺、異形の勇者を迎え撃つ
Side:悠真
煙の向こうで、神谷だった“何か”が形を成そうとした──その瞬間。
黒衣の神官ヴェルナスが、苛立ちを隠さず叫んだ。
「誰だ!
アリア陛下をさらったのは!!」
その視線が向いた先──
そこにいるはずのアリア王女の姿は、すでにない。
(……修一さんだ)
胸の奥に、安堵が広がる。
(助けたんだ……アリアさんを)
だが──
すぐに、その安堵は緊張へと塗り替わる。
目の前にいる“それ”が、ゆっくりとこちらへ向き直ったからだ。
(……来る)
魔力を練り上げようとした、その時だった。
すっと前に出る影。
「私が前に出るよ」
美琴さんだった。
「悠真くんは後ろから叩いて」
「……わかった」
短く頷く。
「気をつけて」
「任せて」
煙が、ゆっくりと晴れていく。
そして──
その姿が、完全に露わになった瞬間。
僕は、息を呑んだ。
「……っ」
身長は三メートルほど。
顔は──確かに神谷颯太のまま。
だが、
腕は六本に増え、
そのうち左右の掌には“女の顔”が浮かび、
胸には“男の顔”が埋め込まれている。
歪んだ肉体。
継ぎ接ぎのような存在。
(……これが)
喉が、ひどく乾く。
(勇者の……成れの果て……?)
人間の形をしていない。
いや──
人間だった“何か”だ。
ヴェルナスが、忌々しげに舌打ちした。
「ちっ……勇者の質が低いせいか。
それとも素材が足りなかったか……」
吐き捨てるように言い放つ。
「出来損ないめが」
そして、無造作にこちらを指差した。
「おい、勇者。
とりあえず──そこにいる賢者と聖騎士を潰せ」
苛立ち混じりに周囲を見回す。
「……それにしてもアリアはどこへ消えた」
異形の勇者が、ゆっくりと動いた。
ギギ……と、軋むような音。
その全身が、不気味に震える。
そして──
こちらへと、視線が向く。
(……来る)
恐怖は、ある。
でも──
それ以上に。
(ここで止めないといけない)
僕は深く息を吸い、
魔力を再び練り上げた。
美琴さんの背中越しに、
その“異形”を真っ直ぐに見据える。
(……ここからが、本当の戦いだ)
Side:修一
影から抜け出し、
アリアを抱えたままオフィーリアさんのもとへ駆け込む。
「オフィーリアさん。
アリア王女を預かってもらえますか」
一瞬だけ間を置き、
「……呪いは、おそらく断てています」
オフィーリアさんは、アリアを一瞥した。
その瞳が、静かに細められる。
「……見事なお働きですこと」
柔らかく、しかし確信をもって頷く。
「ええ、こちらでお預かりいたしますわ」
すぐに視線を動かし、穏やかに指示を出す。
「コマチさん。
恐れ入りますが、イリア様をお呼びいただけるかしら」
「はい!」
「私だけでは、目を覚まされた時に混乱なさるかもしれませんので」
「すぐにお連れします!」
コマチは一礼し、駆け出した。
(……イリアさんがいれば問題ない)
俺はアリアをそっと地面に寝かせ、
リュミナの肩に手を置く。
「俺たちは戻る」
視線は、すでに戦場へ。
「あの異形は美琴たちに任せる。
俺は黒衣の神官を叩く」
リュミナは、迷わなかった。
「うん。一緒に行く」
その瞳に、揺らぎはない。
オフィーリアさんが一歩前に出る。
静かに手を掲げ、
穏やかな声で紡ぐ。
「……どうかご無事で」
次の瞬間、
淡い光が俺たちを包み込んだ。
「《魔力強化》」
身体の奥から、力が湧き上がる。
(……さすがだな)
「ありがとうございます、オフィーリアさん」
「行ってきます!」
リュミナも頭を下げる。
オフィーリアさんは、優しく微笑んだ。
「ええ。お気をつけて」
その声に背を押されるように──
俺たちは再び影へ沈む。
闇の中を滑るように駆ける。
(……次はあいつだ)
脳裏に浮かぶのは、黒衣の神官。
(ヴェルナス)
わずかに息を吐く。
「……今度は逃がさない」
影が、戦場へと繋がる。




