賢者は勇者を圧倒する
Side:悠真
そろそろ作戦開始の時間だ──そう思いながら街道を走っていた、その時だった。
森の奥から、鋭い剣戟音が響いた。
(……っ!?)
胸の奥が、一気に冷える。
(バレた……?
それとも、もう接敵してるのか……!)
嫌な予感が背筋を走る。
(みんなは……無事か!?)
考えるより先に、身体が動いた。
「──《ウィンドムーブ》!」
風をまとい、一気に加速する。
地面を蹴り、森へと飛び込んだ。
視界に飛び込んできたのは──
「……美琴さんと……神谷!」
(やっぱり……!
しかも単騎で来たのか)
すぐに美琴の隣へ駆け寄る。
「美琴さん、大丈夫ですか!」
美琴は盾を構えたまま、ちらりとこちらを見た。
「うん、大丈夫。
神谷くんが来たけど……」
わずかに笑う。
「そんなに変わってないから、なんとかなるよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
「……よかった」
だが、すぐに気を引き締めた。
「ここは僕がやります」
はっきりと言い切る。
美琴さんは一瞬だけ目を細め──
小さく頷いた。
「そうだね」
声を潜める。
「(神谷くんの聖剣は、私の“全力”で止められる。
だから悠真くんなら……余裕を持って受けられるはず)」
その言葉に、静かに頷く。
「……任せてください」
美琴さんは一歩下がり、ひよりさんのもとへ移動した。
「じゃ、がんばって」
その瞬間──
颯太が鼻で笑った。
「はっ。逃げたか」
歪んだ笑み。
「まぁいい。
その“おたくくん”を先に潰してやる」
剣を肩に担ぎ、こちらを見る。
「そのあとで、お前らは俺のものだ。
逃げずに見てろよ」
美琴さんが即座に言い返す。
「悠真くんがあんたなんかに負けるわけないでしょ」
腕を組み、余裕の笑み。
「私たちは観戦してるから。ね、ひよりちゃん」
ひよりさんも小さく頷いた。
「悠真くん、がんばって」
その声に、自然と力が入る。
(……応えないと)
颯太が剣を構える。
「言っとくけどな──一瞬で終わるぞ!」
踏み込んできた。
(来る)
一瞬で思考を切り替える。
左手に魔力を集中。
(《ウォーターシールド》──範囲最小、強度重視)
同時に、右手と周囲に魔力を展開。
(《ファイアランス》……三本、待機)
冷静に、準備を整える。
颯太の剣が振り下ろされる。
(……単調)
フェイントもない。
力任せの一撃。
(見える)
左手を前へ。
ガッ!!
重い衝撃。
だが──
(止まる)
盾は、びくともしない。
その瞬間、反撃へ移る。
右手の槍を突き出す。
「っ!」
炎の槍が、颯太の胴を貫いた。
「ぐぁっ!?」
颯太が吹き飛ぶ。
距離が開く。
(今だ)
空中に待機させていた三本を解放。
ドン、ドン、ドン──!
爆炎が弾ける。
煙の中で、颯太の身体がさらに弾き飛ばされる。
(……え)
一瞬、思考が止まる。
(こんなに……差がある?)
違和感。
だが──
「悠真くん!」
美琴さんの声が飛ぶ。
「追撃! 一気に決めて!」
迷いが消える。
「はい!」
《ウィンドムーブ》で加速。
一気に距離を詰める。
右手に風を収束。
(《ウィンドブレード》)
刃を形成し──
振り抜く。
ザシュッ!
斬撃が走る。
次の瞬間──
颯太の両手ごと、
聖剣が宙に舞った。
「……は?」
颯太の目が、理解できないというように見開かれる。
(これで──終わりだ)
僕は、静かに次の一手を構えた。




