おまけの俺、勇者を迎え撃つ
“釣り出し作戦”を開始しようとした──その時だった。
王城の方角から、
高速で接近してくる気配が走る。
(……速い)
明らかに、異質。
「……何が来ている?」
思わず低く呟く。
「まさか──もうバレたのか?」
胸の奥がざわつく。
(だとしたら……悠真が危ない)
ライルが木陰から鋭く目を凝らした。
「ユウマはまだ来てねぇ。
……それに、あれは一直線にこの森へ来てる」
短く断言する。
「伏兵潰しだ。
最初から俺たちを狙ってる」
その瞬間──
コマチが鋭く声を張り上げた。
「敵は単騎!
……勇者です!」
空気が一変する。
美琴が即座に立ち上がった。
「単騎なら──私が押さえる!」
迷いはなかった。
街外れの道を、
砂煙を巻き上げながら突き進む影。
勇者・神谷颯太。
森の手前に差し掛かった瞬間──
美琴が飛び出し、道の中央に立ちはだかる。
颯太の口元が歪む。
「よう、白浜」
不敵な笑み。
「伏兵はお前か。
ちょうどいい──前の借り、ここで返してやるよ」
腕を掲げる。
「──《聖剣召喚》!」
光が収束し、
白銀の聖剣がその手に顕現する。
そのまま──
躊躇なく振り下ろした。
「受けてみろォッ!」
空気を裂く一撃。
だが──
美琴は一歩も引かない。
「来なさい!」
大盾を召喚し、真正面から迎え撃つ。
激突。
「ぐっ……!」
衝撃で地面が軋む。
足がわずかに滑るが──踏みとどまる。
颯太は口元を吊り上げた。
「へぇ……受けるか」
その目が、狂気を帯びる。
「じゃあ──これはどうだ?」
低く呟く。
「──《カイトリア様、我に力を》」
瞬間、聖剣が白く輝いた。
空気が震える。
神気が、押し寄せる。
(……重い……!)
周囲の圧が一段上がる。
颯太が踏み込む。
「その盾で、これが受けられるかよ!」
振り下ろされる、光の一撃。
ひよりが叫ぶ。
「美琴ちゃん!」
だが、美琴は動じない。
(──《ホーリーシールド》
範囲最小、強度最大)
意識を一点に集中させる。
次の瞬間──
聖剣が盾に触れた。
閃光。
だが、
盾の一点が、青く輝く。
そのまま──
一撃を、完全に受け止めた。
「……なっ!?」
颯太の目が見開かれる。
今度は──
美琴は一歩も下がらない。
踏み込む。
「遅い!」
剣を抜き放ち、即座に反撃へ移る。
鋭い斬撃。
颯太は咄嗟に後退し、
紙一重でそれを回避する。
「チッ……!」
距離を取る颯太。
その表情に、初めて焦りが浮かぶ。
「なんだ、その盾……!」
吐き捨てるように言う。
「俺の……カイトリア様の力を受けて、無事だと……?」
美琴は肩で息をしながら、
それでも笑みを浮かべた。
「神谷くんさ──」
軽く剣を構える。
「本当に強くなったの?」
挑発。
「どうせ、城で遊んでただけなんじゃないの?」
その一言で──
颯太の顔が歪む。
怒り。
明確な、感情の揺れ。
(……乗ったな)
森の奥で見守りながら、
俺は静かに拳を握る。
(美琴……いいぞ)
確実に、成長している。
そして──
(これは“当たり”だ)
勇者が、釣れた。




