測定不能【アンside】
「今回の件は、さすがに見逃せません!」
私は思わず声を荒げていた。
だって、人間だ。
に・ん・げ・ん!
どうやって面倒見ろっていうの!?
……いや、一応もう最低限の準備はしたけど。
人間特有の匂いを消す魔術。
悪魔語を使えるようにする魔術。
お風呂。
着替え。
部屋の用意。
全部終わってるけど!
でも絶対いつかバレる!そうなったら、私もディウム様もただじゃ済まない。
「ふふ~、いいじゃない。
たまにはこういうスリルもさ~」
「……どうしてそんなに楽しそうなんですか」
「え~?
だってもう手続き終わっちゃったし~」
ディウム様の言葉に私は嫌な予感がした。
「……まさか、本当にあの子を学園に通わせるおつもりで?」
「そうだけど?」
終わった。
この人、決めたら絶対に曲げない。
「なら、理由を教えてください。
どうしてあの子なんですか?」
私はまっすぐディウム様を見る。
「身寄りのない悪魔の子供なら他にもいます。
わざわざ人間を選ぶ必要はないでしょう」
ディウム様は少しだけ目を細めた。
「……アンも気づいているんじゃない?」
「……」
気づかない訳がない。
むしろ、一目で分かった。
人間が自力で魔界へ来た。
その時点で異常だ。
しかもその理由が
”道に迷ったら着いた”。
意味が分からない。
「それでも反対です。
寝ている間に人間界に帰せば、夢だったと誤魔化せるかもしれません」
「う~ん」
ディウム様は困ったように笑った。
「じゃあ聞くけどさ。
あの子、どうやって人間界で生きてきたと思う?」
「……普通に生きていたのでは?」
「普通ならね」
その瞬間。
空気が変わった。
「あの子の魔力は大きすぎる」
「……!」
背筋が震えた。
私ですら、ハクレの魔力量を測れなかった。
測定不能。
そんなこと、ありえない。
「人間は普通、魔力を持たない。
一欠片もね」
ディウム様は静かに続ける。
「でも、あの子は違う。
……僕ら以上かもしれない」
ぞくり、とした。
もし本当にそうなら。
魔力の存在しない人間界で、
あんな子が普通に生きられるはずがない。
その証拠と言わんばかりに、
ハクレは自身の髪色を汚して目立たなくしていたし、
身に着けていたものもボロボロだった。
「……むしろ、恐れられていたでしょうね」
私がそう答えると、
ディウム様は満足そうに笑った。
……まただ。
また私は、この人に言いくるめられた。




