025. 魔道具部活
キリア会長に渡された地図の通りに進んできたが、いざ辿り着いた場所の目の前に立ってみると、不安な思いが込み上げてきた。
目の前には、確かに『魔道具部活』と書かれた部屋があったのだが、他の部活に比べて、明らかにボロっとしていた。扉は開けるたびにきしむような音がしそうだし、隙間から風も吹きこんでいそうだ。部室の位置も何かに追いやられるように別館一階の隅っこだし、ファッション部活の優美な扉とは雲泥の差だ。あたりに人気もなく、今までの話し声がまるで嘘だったかのように静まり返っている。
ま、まあ? ここでじっとしてるわけには、いかないし? とりあえず、入ってみますか。
ボクが中に入ろうと扉に手をかけようとすると、勢いよく扉が開いた。
ゴンッ!
ボクは避ける間もなく思いっきり扉に殴られた。
「いった~!」
これ、赤くなってるやつじゃない? ここまで思いっきりぶつけたのは、久しぶりなんだけど。いや、まさかさ? 扉を開けようとしたら、扉の方から開いてくれるとは思わないじゃん?
ボクは思わず手をおでこに当てて、その場にしゃがみ込む。
「あぁ、ごめんやで。大丈夫かいな?」
薄紫色のゆるふわの髪が特徴的な扉を開けたと思われる悪魔は慌ててボクに手を差し伸べてくる。前髪は邪魔にならないようにするためか、ねじってアレンジをしている。
まさか、こんなところに人がいるなんて思ってなかったんだろうな~。
ボクはその手を取り、立ち上がる。その悪魔の袖口には金の二本線が見えた。
デモンズアカデミアは学年によって制服のデザインが微妙に違う。黒基調のその制服には、袖口に金のラインが入っており、一年生は一本線、二年生は二本線、三年生は三本線となっている。
「ほんまにごめんな~。まさかこんなところに誰かおるとは思わへんかったわ。」
口調になまりの入った先輩は何度も謝ってくれる。
そんなに気にしなくてもいいのに。
「いえいえ、大丈夫です。」
「いや~、うち、ほんまそそっかしいんやわ。」
「そうだね。」
入り口のところで何かあったことを察したのか、部室からもう一人の先輩が出てきた。
なんとなく声がキリア会長に似ているような……?
「だからいつも、もっと落ち着けって言ってるでしょ。」
部室から出てきた悪魔を見て、ボクは驚いた。声だけではなく、容姿までキリア会長にそっくりだった。凛としたたたずまいに吸い込まれそうな深い赤色の瞳。けれど、雰囲気は微妙に違っていた。キリア会長は堂々とした爽やかなかっこよさだったが、この先輩はどこか近寄りがたいようなかっこよさだった。
「それで? なんでキミはこんなところにいるの?」
なにかを先輩同士で話していたのだが、唐突にボクに話が振られてきた。無表情なだけだと思いたいけど、視線が少し辛い。そんなじーっと見ないでください。
「あ、えっ~と……。」
緊張しているせいか上手く言葉が出てこない。
「ちょっとアイちゃん! うちらのクラブに見学に来てくれた子かもしれへんやん? そんな聞き方あらへんで~。」
口調になまりの入った先輩がボクに助け舟を出してくれた。ボクが、そうなんです、と言うよりも先にアイ先輩が口を開いた。
「こんな物置に見学に来る物好きがどこにいるんだよ。」
ん? 物置? ここって、魔道具部活ですよね?
「物置やないで~。ちゃんと立派な部活やで~。」
「どうだかな。」
必死に先輩が弁明するも、アイ先輩はそんな先輩を軽くあしらっている。
ぜーんぜん、話の内容が見えないんですけどー? アイ先輩も魔道具部活なのでは?
「あ、あの~。」
なかなか先輩同士の話が切れそうになかったので、ボクの方から声をかける。
「実は、キリア会長に行ってみるといい、って言われてきたんですけど……。ここって、魔道具部活ですよね?」
キリア会長の名前を出すと、アイ先輩は若干、本当に若干表情が曇った。ほとんど無表情であんまり変化はなかったけど。よく見てなきゃ、気づかないレベルだ。
対照的に先輩の方は、ぱあっと表情が明るくなった。そして、笑顔でアイ先輩の方を向く。同時にアイ先輩は顔をそむけた。
なんだこの状況は。でもやっぱり、キリア会長とアイ先輩は関係者っぽい? ケモミミから見るに同じ獣族ではあるっぽいし。
キリア会長がここを紹介したのって、アイ先輩がいるからなんじゃ……。
「いやー、さすがキリちゃんやなぁ。うちらのために新入生を紹介してくれるなんて。やっぱり、アイちゃんはお姉ちゃんに愛されてるどすえ~。」
その先輩の言葉にアイ先輩はなにも返さなかった。そのまま、部室の中に戻っていってしまった。あまりよく見えなかったが、少し照れているような表情だった。本当に変化が少なすぎて微妙だけど。
キリア会長とアイ先輩は関係もなにも姉妹でしたわ。二人とも二年生だから、双子とかかな? 悪魔にも双子っているんだ。確かに、そのレベルでそっくりだけど。
先輩が中へどうぞ~、といった手ぶりをしてくれたので、ボクもアイ先輩の後に続いて中に入る。そして、入ってすぐにアイ先輩が物置と言っていた理由がよく分かった。
部室の大きさは教室よりも少し狭いくらい。けれど、実際に活動できるスペースはかなり狭かった。魔道具と思われるものたちがあちらこちらに散乱していて、中央に置かれているローテーブルの周り以外はとても足を踏み込めそうになかった。
物置ってこういうことか。いや、もうちょっと整理整頓しようか。さすがにこれはまずいでしょ。
「あっ、そうやな。まだ自己紹介してへんかったわ。うちはエリア。よろしくお願い致します~。二年生やけど、一応魔道具部活の部長しとるで~。せや、こっちがキリちゃんの双子の妹で、うちと同じ魔道具部活のメンバー、アイちゃんことアイリスやで。仲良うしてな~。」
エリア先輩はそう言って、すでにローテーブルの向かい側に座って本を読み始めているアイ先輩も紹介した。
やっぱり双子だったんだ。
「ボクは、ハクレです。」
エリア先輩が自己紹介をしてくれたので、ボクも二人に向けて自己紹介をすると、アイ先輩のケモミミがピクッと動いた。そして、エリア先輩に突撃された。
「ハクレ!? あの有名な子がうちらのクラブに見学に来てくれたんかいな!?」
エリア先輩にがしっと体を掴まれてぶんぶん振られる。
分かった。分かったから落ち着いてくれ。揺れが、揺れがしんどい。
ボクは一体何のスイッチに触ってしまったのか、エリア先輩のテンションが爆上がりした。
「いや~、実はこの部活廃部寸前なんやんな~。」
ん? さらっと爆弾発言が投下されたんだが?
エリア先輩の話によると、部活は割と何でもありなんだとか。一般的な競技の部活もあれば、ファッション部活のように珍しいものも数多く存在する。なかには、焼きそば部活なんてものも存在しているらしい。
いや、それどんな活動内容なんだよ。焼きそばのどこに研究要素があるのか。
活動内容のチェックが入るが、一定の人数さえ集まれば新しく作ることもそんなに難しくはないらしい。そして、その規定人数は五人。現在の部員数はエリア先輩とアイ先輩の二人。
「つまり、来週の新入生入部期間までに三人の新入生が入部してくれないと、廃部になってしまうと。」
エリア先輩はこくこくと頷いた。
何事においても勢いがすごい人だなぁ。そんな勢いで首を縦に振ったら、首が痛くなりそうだな。
「ちなみに、普段はどんなことをしてるんですか?」
「別になんもしない。」
本に目を通しながら、アイ先輩がそう答えた。
「一応、魔道具の管理とかはやれって言われてるけど、こんな状態でも許されてるし。」
「失敬な。うちはちゃんと魔道具の開発やらしてますけど?」
「その結果、どんどん散らかってるじゃん。」
図星を指されたのか、うなだれるエリア先輩。つまりは、ここに来るだけでいいってことだよな。ボクもあんまこれ以上目立つことをしたら、アンさんの目が怖いし。ボクはここでいいかな。魔道具っておもしろそうだし。
それに――。
「先輩。もう一人、連れて来れるかもしれません。」
今はもう入部期間の終盤だから、フリーの新入生は少ないって言ってたけど、絶対にどこにも所属してない悪魔が一人思い浮かぶ。明日、連れて来よーっと。




