024. 大胆大胆不敵な生徒会長
「え、いや。はい。そうですけど。」
「一度話がしてみたいと思っていたんだ。君の噂はいろいろ聞いているよ。」
爽やかな笑顔でボクのことを見てくるキリア生徒会長。
なんだろう、笑ってるはずなのに、逃がさないからねっていう圧がすごい!
ボクそんな悪いことした!?
ハクレの頭の中にデモンズアカデミアに入学してからのことが思い出される。
入学式の前に事前テストの魔獣成績一位のウルティアと決闘して、中庭を雪景色にして、入学式で原典をスラスラと読み、魔力測定器を破壊して、飛行レースでも――。
うん、十分生徒会に目をつけられててもおかしくないや。
「あはは、そんなに警戒しなくていいよ。君に興味があるのは、私個人の話だから。」
良かった~。てっきり、生徒会からもお説教をくらうのかと――。
ちなみに、学園内でのボクの行いは全てアンさんに筒抜けだ。というか、身内にもボクの自慢をしたいのか、おじいちゃんがぺらぺらとまあよく喋る。結果、ボクがものすごく怒られる。
「ところで君は、なぜ幻影の付き添いをしていたのかな?」
「えっーと――。」
あれ? 興味があるってそういう感じ?
「特に大した理由はないです。ノアはと……、仲がいいクラスメイトなので。」
危ない。勝手にノアを友達にするところだった。そもそも、魔界に友達なんて概念ないのに。
「やはり、聞いていた通り、君は面白い子だな。」
「聞いていた通り?」
「ああ、立ち話はなんだ。歩きながら、話そうか。」
キリア会長はそう言うと、ボクの横に並んで歩き出した。
どこに向かっているのかは、知らないが。まあ、ついていって迷子になることはないだろう。
「私と彼は遠い親戚でな。入学する前から、彼の話は聞いていた。」
言われてみれば。
キリア会長の頭にもケモミミが見える。もっともその形は、どちらかというとアンさんに似ているようなピンと立ったオオカミのような耳だった。
アンさんのは、猫っぽいからキリア会長の方がちょっと大きいのかな。
あるいは、キリア会長のかっこよくて大胆不敵な性格がそう見させているのか。
「彼がこの学園に入学したら、ファッション部活に入りたがるだろうという予想もついていた。だから、待っていたんだ。彼がファッション部活に現れるのをね。」
「にしては、タイミングがばっちりすぎませんでした? いくら気にかけてたとはいえ、ずっと待っているのは、難しいですよね?」
さすがに、違和感を持つのは当然だと思う。偶然にしては、できすぎている。
「生徒会には、優秀な一年生が入ったのでね。彼からの情報だ。」
さあ、その彼が分かるかな、といった目をボクに向けてきた。
生徒会に入れる優秀な悪魔で、ボクの知ってる悪魔って一人しかいない気がする。
「シオン君ですか?」
「正解。」
確かに、それなら説明がつく。彼は見ていたはずだ。ボクがノアに連れられてどこかに行くところを。
「あの、キリアさん。」
「ん? なんだ?」
ボクがもう一つ、どうしても気になっていたこと。
「幻影ってどういう意味なんですか?」
ウルティアもノアもその異名の意味を教えてくれなかった。
「なんか、ノアに合ってない気がするんですよね。」
キリア会長は一瞬、キョトンとした顔をした。
「そうか、君は事前テストにいなかったから、知らないのか。君は、幻影ときいて、どんなものを思い浮かべるかい?」
難しいことをきいてくるな、この人。
「マジシャン。」
「マジシャン?」
あ、もしかしてこの世界にマジシャンとか手品とかなかったりして?
そりゃそうだよね! だって、魔術があるんだもん。手品とか必要ないわな!
「あ、えっーと。」
どうしよう。なんて説明しよう。
「不思議な子、ですかね? た、例えば、何にもない場所からコインとかいろいろ出したり、手に持ってたはずのものが無くなったり――。」
テンパりすぎて何をしゃべっているんだ、ボクは。
これじゃあ、むしろ、怪しいじゃん!
「それに、ノアはすごいと思います。」
あー、もうだから、ボクの口は余計なことをぺらぺらと。
「だって、あれだけハッキリ自分の好きを言えるってすごいことじゃないですか! ノアがどんな子であっても、ノアはノアです。それ以外の何者でもありません!」
あれ? 今ボク、何の話してたんだっけ?
「あっはっは。やっぱり君は面白い子だね。彼も君みたいな悪魔がそばにいてくれて心強いと思うよ。」
ボクの言葉を聞いたキリア会長は、爽やかに笑った。
「幻影っていうのは、幻、存在しないということを意味している。不思議だよな。なんで世間っていうのは、普通を求めたがるんだろうな。そんなもの存在しないのに。」
でも、世間とはそういうものなのだ。
出過ぎた杭は打たれるまでだ。執拗に、もう二度と突出しないように。
「彼は、大勢の悪魔にとって眩しすぎたんだろうな。その結果、無意識に嫉妬して、気後れして、彼を幻にしようとしている。」
「じゃあ、大丈夫ですね。」
キリア会長の言っていることは、なんとなく分かる。
ノアの置かれている状況も。
「ノアは、それでも自分の好きに真っ直ぐですから。」
それに、ボクらはイレギュラークラス。
きっと、他のクラスメイトも同じようなものなんだろう。
そんな、世間からのあぶれ者が集まってクラスなんだ。もう一人になることはない。似た者同士、もっと他のクラスメイトとも仲良くなりたいな。
あれ? じゃあ、シオン君は――。
「キリア会長。いつまで、油を売っているんですか。いい加減、戻ってきてください。」
声のした方を振り返ると、そこにはシオン君が立っていた。
シオン君もキリアさんと同じケープを羽織っていた。
あのケープが生徒会の印みたいなものなのかな?
「ああ、すまないな、シオン。」
キリア会長はボクを追い越して、シオン君の元へ歩いていく。
「ああ、そうだ。」
途中でキリア会長がボクの方を振り返った。
「君、まだ入る部活が決まっていないんじゃないのか?」
「は、はい。」
そりゃあ、そもそも部活の存在を今日知りましたからね。
「どこか行くあてはあるのかい?」
「いえ、全く。」
えーと、そもそもどれくらいの数の部活があるんでしょうかね? この別館の広さからして、相当な数ありそうだけど。
「なら、私たちのところに来るかい?」
「ちょっと、会長。冗談はやめてください。」
私たちのところ?
……って、生徒会!?
「無理です! 無理です!」
ボクは思いっきり首を横に振る。
ボクに務まるわけがない。規律どころか、問題起こしまくってるトラブルメーカーですよ!?
「冗談に決まっているだろう。本気にするな。」
そして、シオン君の視線が冷たい。
彼と一緒に活動? 多分ムリ。視線で殺されちゃう。
「あはは。そういうシオンだって、むきになっているじゃないか。これはいいことを知ったぞ。」
「なってません。」
いや、絶対なってるでしょ!
「あはは、これ以上はまた今度にしようかな。とはいえ、さすがに冗談だ。」
キリア会長は、一枚のメモをボクに渡してきた。
「そこに行ってみるといい。きっと、面白いものが見られるよ。それじゃあ、またどこかで。」
そのまま、キリア会長はシオン君とどこかに向かって歩いていった。
キリア会長から渡されたメモを開くと、簡単な地図が書いてあった。どうやら、別館の一階の地図のようだ。そして、隅の部屋に、赤いペンで星マークが描かれていた。そこには、『魔道具部活』と書かれていた。




