022. 優しい悪魔
「あっ、いたいた。おーい!」
変なスイッチが入ってしまった。ヴォルト君から距離を取り、ボクはどこかへ歩いていってしまったザーク君を探していた。
「よかったー。まだ近くにいてくれて。この学園、広すぎてよく迷子になるんだよねー。」
ザーク君は、もともとボクらがいた林の近くで歩いていた。ボクが呼びかけると、ザーク君は振り返って歩みを止めてくれた。
「ねぇ! さっきボクに何か言いかけてたでしょ? ほら、ヴォルト君が来る前。」
あの後、そのまま流されてっちゃったから、なんだったのか聞けてなかったんだよね。
「ああ、あれか。別に。もういい。」
「え? なんで?」
ザーク君は端的にそう答えるとすたすたと歩き始めてしまった。
「さっき見ただろ。俺はああいう奴だ。関わんねえほうが身のためだぞ。」
「それ、断る理由になってないから。ってか、クラスメイトなんだし? 関わんないって無理だから。」
「……。」
あれ? なんか前にも似たような光景があったような……。
「お前、しつけえな。」
うん、聞き覚えあるー。
ボクの頭の中でフードを深く被った少年の姿が思い浮かぶ。
「前にも言われた。それ。」
「あっそ。どうせ、アイツになんか言われたんじゃねえの? 能力のこととか。」
「え、あー、うん。けど、ボクは別にいいと思うけどな。」
ボクの答えにザーク君はとても驚いたような表情を見せた。
「別に能力を使うも使わないもそれぞれの自由だと思うし。ザーク君が能力を使いたくないのも何か理由があるんだろうし。ボクは気にしないよ!」
実際、ボクも自分の能力が好きかと言われたら微妙な気がする。最近は、使ってて楽しいけどね。
「だから! ボクはザーク君が能力を使いたくないなら、使わなくていいと思う。」
ザーク君は少し視線をずらした。
「……そっか。」
あれ? でも、能力って得意魔術だったんじゃないっけ? まぁでも、好き嫌いと得意不得意は違うだろうし、そういうこともあるのかな?
「なあ。」
「何?」
「俺にもやらしてくれよ。」
「……何を?」
「……。」
いや、何を!? 話の流れが全くつかめん! ザーク君は今、何の話をしてるんだ? ってか、ボクら今、何の話をしてたんだっけ?
「だから、その……。」
なんでか、ザーク君の表情がほんのり赤い気がする。
だから、どういう状況!?
「手伝い!」
「……はい?」
「その、お前がいつもやってるやつ、俺も、一緒にやっていいか?」
……。すっごく意外な返答来た。
いや、いい子だとは思ってたよ!? あれだけ怒ってたヴォルト君相手にも手加減してたし? ボクに対しては友好的だし? それが、どうしてこうなった。
「あっ! 言いかけてたのって今の話!?」
なら納得だわ。まぁ、あのヴォルト君の前では言えないわな。
「別に全然いいよー。むしろ、仲間ができて嬉しい!」
いやー、用務員さんたちからはお手伝いしてくれる悪魔なんて珍しいって行く先々ですっごく驚かれてたんだよね。ただ、手伝うと言ってしまった手前、引くに引けず……。これが原因で正体バレたらどうしよう!? とか思ってたんだけど、もう一人増えるなら何とかなるかも?
「っていうかやっぱり、ザーク君は優しいんだね。」
「はあ? なんでそうなんだよ。」
「え? だって、手伝いしてくれる悪魔は珍しいって言ってたし、ヴォルト君相手にも怪我しないように加減してたでしょ?」
最後の一撃以外は、ギリギリのところでヴォルト君が止めれるように調節されていた。最後の一撃だって、あれだけ派手に後ろに吹っ飛ばされたにも関わらず、ヴォルト君には怪我らしきものは見当たらなかった。単にヴォルト君が丈夫なだけかもしれないが。
すると、ザーク君は小さく舌打ちをした。
「そんなとこまで、気づくのかよ。」
「まぁね。相手を観察するのは当然のことだから。」
「やっぱお前、変だな。」
ん?
「いやだって、いろいろおかしいだろ。魔術成績一位のネクスフィーを決闘で倒すわ。」
ギクッ!
「神獣のティエンフーは召喚するわ。」
ギクギクッ!
「挙句の果てには、飛行レースの会場を氷漬けにするわ。どんだけムカつく野郎なんだよって思ってた。」
んん?
「でも、実際は笑顔でヘラヘラしてる平和ボケ野郎で。」
グサッ! ちょっと!? 今のが一番攻撃力高いんですけど!? 人間が魔界で平和ボケできるとか、どんな世界線だよ!
「気に入った!」
ん? あれー? もしかして今ボク褒められてた? それにしては、ダメージの方がデカいんだけど。
「それじゃあ、これからよろしくな、ハクレ!」
「えっ、あ、うん。よろしく。」
ザーク君は笑顔で手を振ると、どこかへ行ってしまった。
結局、ザーク君があんなにヴォルト君を嫌う理由って何なんだろう? ボクには、すっごく友好的なんだけどな。ま、いっか。本人が話したくなった時に話してくれれば。
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魔界のとあるアパートの一室。そこには、兄妹が住んでいた。
ガチャ
「あっ! お帰り! お兄! ねぇねぇ、今日の夜ご飯何?」
お留守番をしていた妹が帰ってきた兄に抱き着いた。
「そんなにくっつくな。動きづらいだろ。」
「えー、いいじゃーん。お兄が学園に通い始めたから、一緒に入れる時間短くなっちゃったじゃん。」
「一年経てば、モアだって入学できるぞ。」
「ほんと!?」
いたって普通な仲の良い兄妹風景。しかし、妹のモアの顔には大きな火傷のような跡が見えた。
「お兄、なんだか今日は嬉しそうだね。なんかいいことでもあった?」
「ああ。まあな。」
そう言って、ザークは妹に向かってほほ笑んだ。




