021. 力を求める者
ザーク君たちは、林のような木が生い茂った場所から開けた草原へ移動をした。
どうしてこの学園はめちゃめちゃ広いんだよ! こんなにスペース要らないだろ!
移動中もザーク君とヴォルト君はただならぬ雰囲気を醸し出し、後をついていっているボクがすごく気まずい思いをした。今ボクは二人と少し離れたところに座っている。
「シジェロよ、聞いたぞ。お主、三年生の悪魔に怪我を負わしたそうじゃないか。」
ええっ!? そうなの!? あの時のザーク君を見た限りそんなことする悪魔には見えないんだけどなぁ。
「だからか、お前が執拗に俺に構ってくるのは。」
えっ? だから? 話の内容が全く見えてこない。でも、ヴォルト君が笑ってるってことはそうなんだろうな。
「ああ、そうだよ。思いっきり殴ってやったよ。あのふざけた悪魔をな。」
「ハッハッハッハ! いい目をするではないか。よいぞよいぞ。その怒り思いっきり我にぶつけてみよ!」
「言われなくてもな!」
ザーク君は思いっきり地面を蹴ると、一気にヴォルト君との距離を詰めた。
速っ!? っていうか、悪魔同士の戦いって魔術のイメージが強いんだけど。ウルティアとの決闘の時も魔術戦だったし。この二人、普通に殴り合ってて、どっちかというとただの喧嘩に見えるんだけど。威力は桁外れだけど。
二人の攻防がぶつかり合うたびにボクの座っているあたりにまで空気の振動が伝わってくる。
体格差的にはザーク君がかなり不利だと思ったんだけど、案外そんなことも無い?
二人は一度距離を取った。どちらも息切れしてないところを見ると、実力は拮抗しているみたい。
「さすが。やるなぁ、シジェロ。同学年でここまで耐えられたのはお前が初めてだぞ。」
「そんな栄光、微塵も興味ねえわ。さっさと負けてくんね?」
もはやこの戦闘を楽しんでるヴォルト君と心底嫌そうなザーク君。
この二人一周回って実は相性いいのでは?
「ほう、そうか。なら、我も少し本気を出すとしよう。」
すると、ヴォルト君はなにやら剣を持っている構えをした。
なにをするつもりだろう?
じっとその手の部分を見ていたら、何かがバチっと弾けるような音がした。そして、その音の正体が電気だと気付いたころには、たくさんの小さな稲妻がヴォルト君の手元に集まっていき、あっという間に大剣の形になっていった。ヴォルト君は、稲妻で形作られた黄色に輝く大剣を振り払うとそこには、刃の部分に稲妻模様が入った立派な金属製の大剣が握られていた。
なにそれ!? 超カッコいいんだけど!
「フッフッフ。見たか。これが我の能力、雷刃だ! どうだ、カッコいいであろう? お主も使ったらどうだ? シジェロよ。お主の能力も戦闘向きなのだろう?」
ザーク君は、強くヴォルト君を睨んだ。
「だから、嫌いなんだよ!」
これまで軽くあしらっていただけのザーク君の口調が変わった。これまでで一番大きな声で叫んだ。
「お前みたいな悪魔はみんな! 他者を傷つけるためにしかその力を振るわない。俺はそんな悪魔が、大っ嫌いだよ。」
ザーク君は再びヴォルト君と距離を詰めた。先ほどの拳はヴォルト君がギリギリ避けれるあたりを狙っていたことを後になって知った。ヴォルト君は殴られた勢いで後ろに吹っ飛ばされた。
「もう二度と俺に関わんな。また同じことを言うなら、今度こそ本気でヤる。」
ザーク君は、それだけ言い残していくとどこかに行ってしまった。ボクはそれを目で見送ると、倒れたままのヴォルト君に駆け寄った。
「おーい、ヴォルト君。大丈夫?」
すると、ヴォルト君はガバッと身を起こした。
「見たか!? 今の拳。我など手も足も出なかったわ! 面白い、ザーク・シジェロ。最初はただただムカつくやつだと思っていたが、なかなかいいではないか! 分かるか!? あやつ、我の剣など一切目もくれんかったわ!」
唐突に目を輝かせて興奮したように語り始めるヴォルト君。
「分かった! いったん分かったから落ち着いて!」
ザーク君の方はかなり嫌ってるみたいだけど、ヴォルト君は逆にかなり気に入ったみたい。
これはいいことなのか、悪いことなのか。また今みたいに戦闘を始められちゃうと困るけど。
「ヴォルト君は、なんであそこまでザーク君に嫌われてるの?」
「ん? 知らん! なんでだろうな!」
ヴォルト君が豪快に答えた。
「いや、知らないんかい!」
あんだけバチバチで心当たりが無いってどういうこと? この二人いつから仲が悪いわけ?
「じゃあなんで、ヴォルト君はザーク君に突っかかってたわけ?」
さすがにこの理由は答えられるよね。さっきムカつくやつとか言ってたし。
「え? うーん。気に入らなかったから?」
「いや、なぜ疑問形。」
この悪魔少し、いや結構おバカなのでは?
「ああー、思い出した、思い出したぞ! 能力だ!」
「能力?」
さっきの戦闘と能力がどう関係するわけ? それに、ザーク君は能力らしきものを使ってなかった気がするし。あの格闘技がザーク君の能力なのかな?
「あやつは、能力に恵まれながらそれを使っておらんのだ。」
「え? それだけ?」
「ああ! それだけだ! しかし、あの身のこなし。やはり、我の目は狂っていなかったようだな。あやつは強い。」
それは、ボクも思ったけどさ。けどさ。
「それに、我はもっと力が欲しいのだ。」
「それは、なんで?」
ヴォルト君は誇らしげに笑うと、勢いよくこう答えた。
「カッコいいからだ!」
「……はい?」
「いや、やはり、カッコいいではないか。悪魔は力。力があってこその悪魔ではないか! さらなる高みを目指して何が悪い! 今目の前に超えるべき壁が現れたのだぞ!」
ヴォルト君って好きなことに対して饒舌になるタイプだ。目がキラキラ輝いてるし。
「ところで、お主はどうやってあの魔術を習得したのだ? あれだけ巨大な氷塊を一瞬で作り上げるのだ。並外れた努力が必要であっただろう。」
今度は、矛先がこっちに向いてきた!?
「いや、別に、大したことはしてないって。」
「そんなことは無いだろう。我と同世代であれだけの力を持ったものは初めてだ!」
「だから!」
ダメだ。完全に変なスイッチが入っちゃった。どうすれば止まるん? これ。
「よし! 今日からお主は我のライバルだ!」
「勝手に話を進めるな!」
この悪魔、ブレーキがついてないのか? 常にアクセル全開なんだが?
「ボクは、別に力を求めてるわけじゃないし、君とライバルになるつもりは無い。」
「そうか。しかし、それだけの才を持っているのならば。」
「あのね。」
本当に悪魔はみんな個性強すぎだろ! ボクのクラスがイレギュラークラスだからか?
「誰もがみんな君と同じだと思わない方がいいよ。ボクだって、戦うのは好きじゃないし、力だって欲しくて強くなったわけじゃない。」
「うむ、しかしな。」
「ねぇヴォルト君。ボクらには言葉もあるんだよ? ボクは物理的な君が求めてるような力はあんまり好きじゃない。 けどね。言葉の力は、もっともっと欲しい。そういう意味では、ボクも君と同じかもしれない。」
あっ、これボクもしゃべりすぎたかな? もしかして、難しすぎた?
「そうか。そういうものなのか?」
あ、意外と単純だった。
「そういうもの! いい? これから手当たり次第に戦闘を吹っ掛けちゃだめだからね! それに、相手を知ることも力を求めるには、必要なんじゃない? それじゃあ、ボクは行くから!」
もうボクを巻き込まないで。あのトークは強引に抜け出さないと終わりが見えない。あと、ザーク君にも話を聞きたいしね。




