020. 不穏な足音
ボクがデモンズアカデミアに入学してしばらくがたった。打ち解けた、まではいかないものの、魔界での生活にもだいぶ慣れてきた。
「ハクレちゃん、いつもありがとうねえ。」
「いえいえ~、お気になさらず。ボクも好きでやってることなので。」
朝はユオ君と登校し、授業の合間でいろんな人のお手伝いをする。それが、ボクのルーティーンとなっていた。おかげで、かなり知り合いが増えた。
「ハクレちゃん、こっちもお願いしていいかな?」
「はーい、もちろんです!」
まぁ、人間のボクが呑気にこんなことやってていいのか、とは思うけど。いつまでもビクビクしてるのは、もったいないしね。それに、ここにいる悪魔は、みんな優しいし。
「いや~、ほんと、ハクレちゃんは手際がいいね。家でもなんかお手伝いしてるの?」
「あ、ええっと、今の家だと、アンさんに止められますね~。」
アンさんって、四六時中ボクを監視してるわけじゃないよね、って思うくらい、すぐバレる。唯一許されてるのは、朝のお弁当くらい。あの悪魔、どれだけ優秀なんだろう。
「へぇ~、じゃあ、掃除とかは初めてだったりするの?」
「いえ、前は……。」
これって言っていいことだろうか。いや、おじいちゃんの家に来たのは最近って事にすれば……。いやでも、勝手にそんなことはしない方がいいだろうし。
「時々、アンさんがやってるのを見て、見よう見まねで。」
とりあえず、誤魔化しておこう。
「すごいね。まぁでも、あの悪魔の真似なら納得がいくなあ。」
おじいちゃん同様、アンさんもけっこう有名らしい。もしかしてだけど、アンさんも物凄い悪魔なんじゃ。
「ありがとう、ハクレちゃん。今日はここまででいいよ。」
「え、でも。いつももうちょっと向こうまで運んでますよね?」
「いいの、いいの。本当は一人でやらなきゃいけない仕事だし、これまでも一人でやってたし。」
あ、確かに。
「それに、あそこにいるの、クラスメイトじゃない?」
用務員さんが指さした先には、木の陰に隠れてじっと様子を伺っている悪魔が。こちらが気づいたところですごく慌てているのが見て取れる。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。」
ボクは、持っていた荷物を用務員さんに渡して、その悪魔の方へ歩いていく。
でも、誰だろう? ウルティアやノアなら普通に声をかけてくるだろうし、ゼフィアかセオドアかな。まじで、最近よくからかわれるんだよね。あと、関わりのあるクラスメイトは、ユオ君とシオン君だけど……。あの二人は、違うだろうな。ユオ君は、多分どっかでまた寝てるだろうし。
ボクは、その悪魔が隠れていた木の裏を覗き込んだ。
「ええっ!?」
そこにいたのは、予想の遥か斜め上。ザーク・シジェロ君だった。
「えっと……、ザーク君、だよね?」
ザーク君は、見つかることを諦めていたようで木陰に座り込んでいた。こんがりと焼けた肌が特徴的で、背はノアよりも少し高いくらい。かなり引き締まった筋肉に夕日みたいなオレンジの髪。かなりヤンチャな印象を受けてたんだけど、思ってたより大人しい?
すると、ザーク君は睨むようにボクを見上げた。
「っ!?」
「お前、いつもあんなことしてんのか?」
「……はい?」
威圧的な態度に思わずビビっちゃったけど、やっぱり見た目があれなだけでいい子なんじゃ……。
「なにじろじろ見てんだよ。こっちがきいてんの。さっさと答えろ!」
「え、あ、うん。あんなことって、お手伝いの話?」
それ以外に心当たりが無い。
「それ以外に何があんだよ。」
ですよね~。
「毎日やってるよ。それがどうかした?」
「俺――。」
「おっ、やっと見つけたぞ、シジェロ。」
ザーク君の言葉を遮って、茂みの向こうから一人の男子生徒が現れた。
「って、ヴォルト君!?」
「む? ハクレか。こんなところで会うとは、奇遇だな。」
悪魔って距離感こんな近いんか? ボク、君と話したのこれが二回目くらいだと思うんだけど。奇遇って、そんな仲良し設定だったのか。いや、嬉しいけど!
すると、ザーク君が立ち上がり、さっきとは比べ物にならないくらい強くヴォルト君を睨んだ。
あれ~? もしかして、この二人相性悪い? 二人ともボクに対してここまで強く当たられたことない気がする。
「ほう、随分とやる気ではないか。」
「違う。俺はお前が嫌いなだけだ。」
「なら、その思い、我にぶつけてみよ。」
「……。」
何々!? この一触即発な空気。この二人、どういう関係?
「はあ、お前は分かっていない。だから、嫌いだ。」
ザーク君はため息をついてそう言うと、どこかへ歩いていこうとする。
「待て。また逃げるつもりか?」
ヴォルト君が、そうザーク君に問うと、これまでで一番強い威圧のこもった視線が送られてきた。これは、本気でない。けれど、殺気、というには十分だった。そんな強い殺気を浴びてヴォルト君は、笑っていた。
「ようやくやる気になったか。よいぞ。ここは見通しが悪い。場所を変えるとしよう。」
この二人、放っておいたらまずい気がする。




