019. 氷創《アイスメーカー》
「おーい、オルせんせーい!」
ハクレは、笑顔で手を振りながらスタート地点へ戻って来た。すでに周りには、飛行レースを終えたクラスメイト達が自由気ままに過ごしていた。
「お前、カプセルを持っていないだろう。リタイアか?」
オル先生は、鋭い目つきでハクレを睨んでくる。もう慣れたのか、そんな事には動じず、ハクレはニコニコと笑っていた。
「いや~、これからですよ。これから。ここでやった方がボクもミスらないと思ったので。」
ハクレは、先生たちの方から雲海の方へと向き直ると、左手を前に突き出した。ハクレの生み出す冷気が風を起こし、制服や髪を揺らしていた。
「苦手なんだよな~、魔力制御。」
自由に過ごしていた生徒たちがハクレに注目する。魔力の見えないハクレから、何やら面白いことが起こるような予感を感じ取っていた。
すると、彼女の立っているあたりから雲海が凍り始めた。どんどんとそれは広がっていき、やがて遠くに見えている結界の壁にまで届くと、その結界にすらも氷の膜が張り始めた。
「おい、貴様。何をするつもりだ。」
「オル先生、」
唖然とするオル先生を振り返り、ハクレは緊張感もなく言った。
「もうこの先には、誰もいないんですよね?」
「……ああ。」
ハクレは、再び雲海の方へと向き直った。
「それじゃあ、終わらせちゃいますね~。氷結!」
ハクレが唱えた呪文は、以前ウルティアとの決闘で使ったものと同じだった。しかし、その威力は比べ物にならなかった。目の前に広がっていた広大な雲海は、大きな氷塊となっていた。
「よし! これでオッケー。」
「おい、何をしている、貴様。」
「何って、飛行レースですよ。こんな広い場所でたった一個の小っちゃいカプセルなんてボクが見つけられるわけないじゃないですか。だから、こうやって、」
ハクレは、コンコンと氷を軽く叩く。すると、大きな氷塊は崩れ、凍りつく前の雲海へと戻った。そして、遠くの方から小さな氷塊がこちらへやってくるのが見えた。
「一回氷漬けにして、居場所を探したってわけです!」
ハクレは、その氷塊を手に取ると、中にカプセルが入っているのが見えた。ハクレは、笑顔でオル先生に宣言した。
「これで、ボクもゴールですよね?」
オル先生は、少し複雑そうな顔をした。
やっぱ、ちゃんと飛んでゴールしないとまずかったかな?
「はぁ、これにて飛行レースは終了とする。」
「やったぁ!」
案外、工夫すれば人間のボクにもできるもんなんだね
「すげぇ、魔術じゃん。どうやってやったんだ?」
「何今の取り方、チョースゲェんだけど!?」
「すごいねぇ、ハクレちゃん。ノア、また見惚れちゃった~。」
「さすが、ハクレ様ですわ。」
あんな魔術を見せられては、悪魔たちはハクレに興味津々だった。
また囲まれた。どうしろっていうんだよ~。でも、楽しいな。魔界って、確かにバレたらヤバいんだろうけど、ボクは、今がすっごく楽しい!
「おい、貴様ら、まだ授業は終わっておらんぞ。」
あ、えっ~と、今授業中なんでしたっけ。
「それぞれ、カプセルを開けろ。」
え? この中に何か入ってるの? 結構軽いんだけど。
「貴様らのランク付けを行う。カプセルから出てきた宝玉の色が貴様らのランクだ。」
はい? これって、そんな大事な試験だったの!? え、じゃあ、しかもセオドア君にカプセル盗られてるんだから、セオドア君の宝玉って元はボクのなんじゃ……。
「ねね、皆何色だった? もちろん、オレは灰~。」
「ハハ、ゼフィアはそんなもんだろ~。」
「な~んて、笑っちゃって、どうせ、セオドアも一緒だろ~。」
あの二人仲がいいのかな。教室入った時も一緒に遊んでたし。昔からの知り合いとか?
「そうそう、俺も灰――。なんつってな。」
セオドア君が取り出した宝玉は、ゼフィア君が持っている灰色の宝玉とは、似ても似つかない色をしていた。
「はぁ!? 桃!? なんでセオドアがそんな高いんだよ!」
「さぁ?」
ゼフィア君を笑っていなすと、セオドア君は勝ち誇ったような笑顔をこちらに向けてきた。
むっきー。なんだっていうんだよ。元々はボクのなんだし、ボクのだって同じはずだし。
ボクは、カプセルを開ける。
「白?」
「!?」
いや、なんとなく開けてみたものの何色がすごいのか全く分かんないんだけど。話の内容的に灰より桃の方が高いんだろうけどさ。白はどの立場?
「貴様、今何と言った。」
「え、いや、ボクの宝玉が白かったので――。」
なになになに!? 白ってそんなヤバいの? もしかしてめっちゃ底辺とか? いや、人間だからあり得るけども!
「聞いたことが無い」
……はい?
「本当に綺麗な宝玉ねえ。初めて見たわ。」
「透明にも見えなくは無いけど、こんな宝玉もあるんだね~。」
……おっと?
「へぇ~、すっげ~」
「前代未聞の宝玉を出してしまわれるとは、さすが、ハクレ様ですわ。」
ウルティア? それって褒めてるの? なんなの? ってかこれ、ヤバくない?
「ちなみに、ウルティアの色は何だったの?」
「緑ですわ!」
うん、ごめん。聞いたボクが悪かった。全く分かんない。
『全く、しょうがない小娘じゃ』
ユキ! え、でもどこから?
周りをきょろきょろ見回してもユキの姿は見当たらない。
『そうきょろきょろするでないわ。妾が姿を現し、説明してしまえば、其方の無知が露見してしまうであろう。』
ありがとう、ユキ! 解説お願いします。
『うむ、よかろう。悪魔においてのランクは十段階じゃ、下から、灰、水、桃、緑、青、紫、黄、金、赤、黒となる。』
ほうほう。つまり、ウルティアは下から四番目ってことか。あれ? 白は?
『無い』
え!?
『白なんてランクは存在せぬ。娘よ、ようやく自身が置かれている状況が理解できたかのう?』
はい、十分です。ありがとうございました。
『うむ。では、後は自分でどうにかするのじゃぞ。』
いや、どうにかしろと言われましても。どうしようもなくないですか?
「貴様のランクは後日伝える。本日の授業はこれにて解散とする。」
あれ? 意外とこの場は何とかなりそう。じゃあ、いっか。
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後日。職員会議の結果、ハクレのランクは測定不能として、灰という形に収まった。そして、ハクレはこの出来事をきっかけにさらにその名を広めることになった。
「ねぇねぇ、聞いた? 特待生のランクの話。」
「あー、知ってる。色無し、でしょ。」
「そうそれ、白い宝玉とか、マジやべーよな。」
「あとあれだろ、会場を氷漬けにしたってやつ。」
「新入生の所業じゃねぇよな。」
「いやー、人気者だね~、特待生。」
「ちょっと、ゼフィア君! からかわないでよ!」
「えー、いいじゃん、だって面白いんだもん。」
ハクレは、ゼフィアやセオドアからよくいじられるようになった。




