012. 無気力な悪魔
「あの、ボク道に迷っちゃって
帰り道教えてくれないかな?」
「……」
ハイ無視~
まぁ、当然だよね。
何というか他人と関わるのがすごく嫌そう。
けど、そんなこと今のボクには関係ないんでね!?
「キミ、名前は?」
「……」
「キミも新入生だよね?」
「……」
やっぱダメかぁ~
積極的に話しかけたらなんかしらの反応はあると思ったんだけどなぁ。
「はぁ……」
なんて思ってたら、少年は小さくため息をついて立ち上がった。
そして、ボクのことを振り返ることもせずどこかへ歩き始めた。
「待って待って!
校門まで一緒に行こう?」
ボクは慌てて彼を追いかけた。
よっしゃ、第一関門突破。
彼のことを追いかけながら思う。
きっと、キミはボクとは違う。
ボクは、誰かの為に優しくなんてなれなかった。
これも全部、自分の為にやってることなんだ。
キミを、あの日見捨てられた少女を重ねてしまっているんだ。
もうとっくに壊れてしまった少女を――。
キミはあの子と似た目をしていた。
一目見て、分かってしまったんだ。
キミも、
全てを諦めてしまったんでしょう?
変わらない世界に。
どこまでも無慈悲な現実に。
もう逃げない。
そう思った。
キミにあの子の二の次にはなって欲しくない。
キミは身勝手だって言うかもしれない。
ボクのことを嫌うかもしれない。
それでも――。
キミのことを放っておけないんだ。
ボクはもう知っている。
この世界の美しさを。
優しさを。
どんな人でも変われるってことを。
「ねぇねぇ
ずっとキミって呼ぶのも変だし、名前くらいは教えてほしいな~」
遠くの方に校門が見えてくる。
さっきまで赤く染まっていた空は藍色へと変わり始めていた。
季節感は人間界と変わらないのかな。
会話らしい会話はしてないけど、たぶん案内はしてくれてるんだもんなぁ……
「……キミは優しいよ」
思わず独り言が零れる。
少し冷たい風がボクらに吹き付けた。
「……そんなんじゃない」
校門についたところで少年が足を止める。
感情を押し殺したようなその声は、どこか自分に言い聞かせているようだった。
期待しちゃいけない、そんなはずない、と
自分で自分を否定するような
そんな声だった。
「優しくないひ……悪魔は、見ず知らずの相手に道案内なんてしないよ」
あっぶな~い
これまでの癖で”人”って言っちゃうところだった。
悪魔呼び慣れないなぁ
すると、少年は再び歩き出してしまった。
ボクも慌ててその横に並ぶ。
「……ついてくんな」
「ここ一本道だから無理
っていうか、ボクの方も自己紹介してないか」
ボクは小走りになって、少年の前に立つ。
「ボクは、ハクレ
よろしくね」
彼はそのまま、ボクの横を通り過ぎて行った。
ほんと、他人に興味なさそうだなぁ
ボクは、何事もなかったかのように隣に並ぶ。
今はこれでいい。
だって、キミはボクのことを拒まないから。
それで充分だ。
――――――――――――――――――――――――――
「……結局さ、いつまでついてくんの」
そのまま、一本道を通り、森に入り、おそらく少年の家の前までついていった。
その間も、ボクが一方的に話しかけてるだけだったんだけど……
「まだ、名前聞いてないもん」
彼は困ったような仕草をした。
顔がフードで隠れちゃってるのが、もったいないなぁ
というか、魔界って結構顔面偏差値高いと思ってたけど、なかなかの美形じゃない?
人間界だったら、女子に囲まれてたぞ
絶対。
「……ユオ」
「ユオ君?」
めっちゃかっこいい名前じゃん。
日が暮れてきたのも相まって、夜の雰囲気がめちゃめちゃ合ってる
そのまま、家の中に入っていくユオ君。
「あ、ちょっと待って!
キミ、ちゃんとご飯食べてる?」
「……適当」
やっぱりか
どうりで小柄すぎると思ったんだよ
背なんかボクより小さいし
ちょっと可愛いかも……
じゃなくて!
「じゃあ、明日お弁当持ってくるから!
支度はしておいてね
それじゃあ、また明日!!」
ボクは、ユオ君に手を振って、木の隙間から覗いているお屋敷めがけて走り出した。
ご飯ってめんどくさくなりがちなんだよね。
あの子も、一日一回、一本満足バーとかだったもんな……
今のボクからすれば、あれをご飯とは言わない。
というか、あんな豪華な食事を知ってしまったら、もう戻れない。
アンさんに頼んだら、キッチン使わせてくれるかな。
あれ?
魔界の食材で人間界の料理ってできるのか!?
――――――――――――――――――――――――――
なんなんだよ、アイツ
急に話しかけてきたと思ったら、家までついてくるし。
また明日って、何考えてんだよ
オレは、制服のままベッドにダイブする。
部屋の明かりは暗いまま。
どうせ誰も帰ってこない。
物心がついたとき、すでに両親はいなかった。
オレを生んですぐに地方の方へ引っ越したらしい。
だから、親の顔なんて知らねぇし、別に興味もない。
それからしばらくは、姉との二人暮らしが続いた。
頼れる親戚もいないオレらだったが、お互いがお互いに特別な感情を抱くこともなかった。
ただ、一緒にいる、それだけだった。
数年前、その姉も突然姿を消した。
だからと言って、何かが変わったわけでもない。
オレが居ようが居なかろうがどうせ世界は変わらない。
なら、全てがどうでもよくなった。
デモンズアカデミアに入学したのも、特に理由はない。
入学許可証が送られてきたから、入っただけ。
アイツもどうせすぐに愛想をつかす。
オレの繰り返しの毎日は何も変わらない。
――そう、思っていたのに……
――――――――――――――――――――――――――
翌朝。
アンさんに頼んで作らせてもらったお弁当を持って、ボクはユオ君の家の前に立っていた。
アンさんにほんと感謝。
人間界にある食材の特徴を伝えたら、めっちゃ近い魔界の食材を教えてくれた。
特有の調理方法とかもあったけど、アンさんの教え方がこれまた上手い。
ちなみに、今日作ってきたのはお弁当の定番、おにぎり
具材も豊富にツナマヨ、焼き鮭、おかか、梅干し、鳥そぼろ!
もちろん、塩おにぎりも入ってる。
ユオ君の好みがわかんなくてとりあえずいろいろ作ってみた。
まぁ、ツナも鮭も使ってないから、実際は別の似たような具材なんだけども
魔界では、塩おにぎりが定番らしく中に具材を詰めると言ったら、アンさんも驚いていた。
絶対こっちの方がおいしいのに……
コンコンコン
ボクは扉を叩く。
チャイムがあるのかなって思ったけど、ないっぽい
もう何が普通で何が異常なのか分かんないや。
こっちの常識は通じないし、魔界の常識も一切わからん。
しばらくして、ガチャリと扉が開いた。
昨日と同じ格好でユオ君が出てくる。
「……なんで来るの」
寝起きなのか、昨日よりも不機嫌な気がする。
「おはよう、ユオ君!
一緒に学園行こ!」
「……意味わかんねぇ
なんでオレに構うわけ?」
「ボクがユオ君のことを気に入ったから!
ほら行くよ」
半ば強引にユオ君を連れ出す。
「おいっ……ちょっと待っ――」
「ユオ君で好きな食べ物とか嫌いな食べ物ある?」
「……」
これはどうでもいいってやつだな
まぁ、気持ちはわからんでもない
だってどれもおいしいもん
食べれれば問題なし
「じゃあ、探してみよっか
まずは、シンプルに塩おにぎりね
はい」
ユオ君は何の反応もなしに受け取った。
そして、小さく一口かじる
「……」
二口。
しばらく黙って食べて。
「……うまいな」
「ほんと!?」
ボクはグイっとユオ君に近寄る。
すると、ふいっと顔をそらされた。
「良かったぁ~」
自分で作ることはあっても、誰かに食べてもらう機会なんてなかったもんな~
アンさんにも褒められたし、意外にも料理の才能があったりして
こうして、ボクらは、朝ごはんを食べながら登校したのだった。




