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第八話 価値を知らぬ者

 戦えない貴族たちが、近衛兵に護衛され次々と広間から逃げ出していく。だがそれでも、背後から襲われて倒れる者も少なくない。身を潜めていた方が安全だと考えた者たちは、円陣を組んだ近衛兵たちによって守られていた。

 王はヴォルフガングの側にいる。正直なところ、近衛兵よりもヴォルフガング一人に任せた方が百倍は安心できる。

 事実彼は、王とレナード、そしてアレクシアを庇いながらも危なげなく魔獣を斬り伏せていた。

 しかしそれでもその数は多い。連絡を受けて駆けつけた魔導師たちも、室内では強力な魔法を使えず、兵たちにバフをかけるなどの後衛に回っていた。

 王妃の姿は、どこにもなかった。

 混乱の最中に、まんまと逃げおおせたようだ。目的も、その理由も何も語らぬまま。もっとも、呪の末裔の紋様を顔に刻んだアレを王妃と呼んで良いのかは疑問だが。 


 少しずつ魔獣が数を減らしていく。


 最後の一頭を仕留めたクリストフが、一雫の汗を額からこぼしながらアルベルトを振り返った。  


「無事か、アルベルト」

「ええ。殿下は?」

「……情けない話だが、右の脇腹を少し負傷した」

「初陣では、最初の一振りも出来ない者の方が多いと聞きます。……ご立派でした」


(忙しくてあんまり見れてはなかったけど、初めてでこれだけ戦えるのは本当にすごいよ。中身が私のアルベルトの初陣とか、足が産まれたての子鹿状態だったからね……)


 周囲を見回し討ち漏らしがないことを確認すると、剣を鞘に納めクリストフの元に向かう。

「右の脇腹ですね。……失礼いたします」

「ア、アルベルト!?」

 服が裂けて血が滲むクリストフの脇腹に、そっと手を乗せる。

「呪の末裔が生んだ獣たちです。念の為、傷口に解呪をかけておいた方が良いでしょう」

「……、あ、ああ、…そうだな」

 小さな光が手のひらから溢れる。

 しばらくそれを無言で見つめた後、手を離し二歩ほど下がった。

「あとは治療師に」

「わかった、ありがとう」

 光が吸い込まれた自身の脇腹を眺めていたクリストフが、感嘆したようにつぶやく。

「……そなたは、本当に強いのだな」

「まだお疑いでしたか?」

「い、いや、そうではない。私はそなたの戦いを見ていた。……無駄がなく、鋭く、…美しい。あの魔獣たちを、最も多く屠った。……いったいどれほどの死戦を越えれば、あの域に達するのか」

 クリストフにとっては、魔獣の出現も、自身の初陣も、そしてアルベルトの戦い方も。全てが衝撃だったのだろう。

「光栄です、殿下。私があなたの目にそのように見えているのだとしたら、…それはきっと彼のおかげなのでしょう」

 アルベルトはそんなクリストフの気持ちに心の中でいつものテンションで頷きながら、柔らかい光を湛えた薄紫の瞳をクリストフの背後、その奥からやってくる人物に向けた。

「閣下、ご無事ですか?」

「ああ、問題ない。君は?」

「ご命令通りに」

「……さすがだな」

 ふ、と微笑み、クリストフに視線を戻す。

「殿下、友人となったことですし、改めて紹介いたしましょう。ヴォルフガング・ツェベルク。私の従兄弟であり、友人であり、最も信頼できる右腕です」

 紹介を受けたヴォルフガングが、クリストフに対して騎士の礼をとる。

「私がこうして生きていられるのも、彼がいるからこそ」


(これは本当。アルベルトが怪我したら、リミッター解除したみたいに更に激強になるからね。あれはもう、鬼だよ、鬼神だよ。あれ見るのが怖いから、怪我しないように頑張るまである)


「ヴォルフガング・ツェベルク……、そうか……そなたも」

 頭を下げるヴォルフガングに、クリストフが何かに納得したように目を細める。

「囚われてしまった、ということかな。……お互いに」

 ヴォルフガングは微かに息を吐いたが、何も言わずに姿勢を戻すとまるでそれが自分の本来の位置だと示すかのように己の主の背後に控えた。

 アルベルトの心の中が、妙なテンションで悲鳴をあげる。


(ひゃ〜!なんかすっごい三角関係っぽい台詞だ〜!久々に壁になりてぇ〜!!ていうかクリストフが囚われてるのは何かの間違いだろ〜!目を覚ませ王子〜!中身はコレだ〜!あと悪いけど、ヴォルフガング様はガチで忠犬なだけだからな!見よ、この『これが仕事ですから』感満載の真面目な眼差し!中身が私のアルベルトのことは、主君として見てくれているだけなんだよ)


 やんややんやと騒ぐ自分をなんとか押し込めて、クリストフを誘い王の元へと向かう。


 王は、アルベルトを見て、そしてクリストフをゆっくりと見てから、深く長いため息をついた。


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