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50 神の欠片

 傍から見ていて何をやっているのか俺にはさっぱりわからないのだが、姉ちゃん達が研究室で男の剣を魔法陣が大量に張られた水槽の中に入れ、白い砂に埋めたり出したりしている様を見守っている。


 ニヤニヤしている姉ちゃんの傍で、エルフさんや黒いローブの男はへっぴり腰でおっかなびっくり見守っている姿から察するに、何気に結構ヤバい事をやっているようだ。


「フラさん、なんか水槽めっちゃ震えてますけど…ミシミシ言ってますけど、大丈夫なんでしょうか?」

「耐震魔法を出来うる限り施してるんだけどなあ…今は義手の力で押さえてるし大丈夫だと思うよ」

「魔法というよりも、腕力で無理矢理ネジ伏せている感じに見受けられるのだが…」


 ローブの男の言葉を聞いて、ニコッ!と笑顔になった姉ちゃん。姉ちゃんは昔から、逆らうことが出来ない圧倒的な暴力でネジ伏せるのが大好きな女だから、嬉しいのかもしれない…。


 姉ちゃんはベンヌに貰った何やらすごい義手を改造して使っており、あの日奇跡の復活を遂げてから異常に高くなってしまった魔力もフル活用した上での力任せなので、何気に本気でヤバいのかもしれない…。


「この剣にちょっと信じられないくらいに巨大な力が封印されているのは確認できたよ。でもね、現在進行形でゆっくり消えていってるんだ。このまま放置でも何も起こらずに力が消えると思うよ。多分、取り出す事も出来ると思うんだけど、ものすごく大変かもね…義手があれば何とかなる気はするんだけど」


 義手で剣を持って、軽く一振りする姉ちゃん。ベンヌ曰く、この義手は以前に負傷した天使が使っていた由緒正しいものだそうで、装着者には様々な加護がかかるらしいのだが、力まで強くなるとは。


「それが地震を起こす力の塊だって事も実験で分かったけど、それを使って世界を滅ぼすってのがどういう事なのか、正直よくわからない…地震ってそんなに怖いのかな?この剣で攻撃される方が怖くない?」


 姉ちゃんが首をかしげる。どうやら、大地震が怖いというイメージが希薄らしい。


「地震って大きくなると地面が割れて建物が倒壊して、地面の振動で海に大きな波が発生して、かなり大変な事になるってエルフの里の長老に聞いた事があります。私も大きい地震って体験したことが無いんですが…正確な記録も残ってないんじゃないでしょうか?」


 どうやらこの世界では、何処であっても地震による大規模な破壊が殆ど起こらないらしい。実は結構な年齢らしいエルフさんですら知らないという事は、仮にこの剣で大規模な地震が発生した場合、大パニックが引き起こされ、多数の死傷者が出るだろう。


 大型昆虫、大型台風、大型地震の3つが同時に襲い掛かってきたら、我々人類は滅び去ってしまうに違いない!と考えて、それを準備して実行した誰かが居るらしいという現実に頭を悩ませてしまう。


 そんな事、普通の人が考えるだろうか?そもそも、あんなハチャメチャな力を何処から得たのだろうか?


 ローブの男もそうだろうが、これらの武器を持っていた男たちは皆、普通の人間とは思えないくらいに強かった。俺に今繋がっている命汁タンクは彼らの物だ。目の前のローブの男の物は小さかったが、それでも普通の人の何百倍も大きい。彼らを従えるのだって大変だったろうに、こんな出所不明のヤバそうな武器を渡して、後はおまかせっぽい運用をしているのだ。


 とんでもない能力を持ちながら、雑な悪事を働いているとしか思えない。


「……ちょっと、いいかな……?」


 後から声がかかる。モルテだ。そういえば今日はボスコの店辺りからずっと黙ったままだったが、何かあったのだろうか?


「おじさん。その剣に封印されている力…先程、何の力と仰ってましたか?」

「ああ、それを渡してきた連中は、神の力とか言ってたが……」


 モルテの瞳から、ボロボロと涙が落ちる。これまで、様々な形で涙を流して悲しむモルテを目にしてきたような気がする。しかし、これ程までに心を痛め、沈痛な面持ちになって、泣き崩れるのを我慢しながら喋るモルテを見たのは、初めてだったかもしれない。


「それ、多分…本物です……。近くで見てやっと解ったくらいに弱く小さいけど、本物の神の力を感じます……!雑に切り取られた神の輝きの欠片が、剣の内部に無理矢理押し込まれている…。酷いです…何処の誰が、一体どうしてこんな酷い事を……?」


 ポケットのベンヌの羽の力を使ったのだろうか?モルテの片腕が神聖な輝きに満ち、そのまま姉ちゃんの持っている剣に触れると、重厚な金属製の剣がまるで寄木細工のようにカパカパと開き、内側から溢れ出る光と共に、本来直視してはいけないようなとんでもない何かが出てきたのを感じて、思わず顔を伏せてしまいそうになる。


 姉ちゃんやエルフさんは呆気にとられた顔で輝きを直視しており、ローブの男は尻もちをついて驚いている。全員喋ることを忘れ、ただ、その輝きを見つめる事しか出来ない。それを見つめ続ける事以外に何をしろと言うのか。


 あれは、人であり人でしかない俺たち程度の存在が関わるべきものではない。本来は同じ空間に居て良いものですらないだろう。神の輝きの欠片と言っていたが、正真正銘の化け物の欠片だ。そんな規格外のヤバい物に顔を近づけるモルテ。瞳が光を放ち、何らかの力を使っている事が判る。


「やっぱり…。このままでは存在が無くなる…」


 モルテの手の中で光り輝く何かから発されるものすごい圧に呆然としていると、モルテは俺に向かって片手を俺に伸ばし、俺の手を取ると、何か覚悟を決めた顔で無理矢理ニッコリと微笑んで、こう告げてきた。


「ごめんねお兄ちゃん!付与の奇跡を行います!」

「えっ!?何で謝るの!?」


 モルテの全身が強く発光する。天使だったモルテの時とは違って無理矢理捻りだしているような雰囲気だが、あの時と同じく奇妙な文様が溢れ出して、掌を経由して俺の中に入ってくる。


「ユ…ユウナ!?モルテ!?何これ…何が起こってるの!?」

「な、なんじゃこりゃ…原始言語?妖精語?ハイエルフの言語に似ている…か?」


 以前と比べて何かがおかしい。頭や体に痛みなどを感じたりすることは無いのだが、溢れ出てくる光や文様の量が半端ではない。異常を感じてモルテに目を向けると、膨大な光に包まれながら、その光に溶けるようにゆっくりと身体が溶けて崩壊していく姿が見えた。


「モッ…モルテ!?どうして!?体が溶けてるよ!?」

「ふあぁっ!!いいいい痛いぃ~っ!!お兄ちゃん治して、治して~!!」


 文様の放出が終わり、全てが俺に吸い込まれると同時に、モルテは泡を吹いて気絶して光の中に完全に消え失せようとしていた。咄嗟に元気いっぱいなモルテの姿を脳内に描き、その存在を、復活を信じた。あのポンコツ天使は奇跡の光なんかに負けず、此処に在るぞ…と。


 その瞬間、というよりも、復活を信じる前の段階で、俺の中にこれまで無かった何かから、正体不明の密度が高い光の塊が溢れ出て、モルテの全身を包み込んだ。手で触れるんじゃないかと思えるくらいドロっと濃密な光はモルテだけでなく、姉ちゃんやエルフさん、ローブの男にまで飛び、全員の全身をふわりと包み込むと、皆は眠りの世界へと誘われる。


「………お兄ちゃん、聞いて」


 モルテの身体は既に元通りの元気なモルテに戻り、俺に語り掛け始めている。姉ちゃんの手は瞬時に再生し、義手が机の上にゴトリと落ちた。欠けていたエルフさんの耳も元に戻り、ローブの男の気になっていた猫背がシュンと伸びる。睡眠中の全員があからさまに全身に何の異常も無い優良健康体に補正されていく中、モルテが語り出す。


「今、お兄ちゃんの身体に、消失しかかっていた神の欠片の力を付与しました」


 それぞれが抱えていた細かな問題…虫歯や巻き爪や枝毛や高血圧や尿管結石なども修正され、その肉体の全てを本来あるべき姿に補修した。この者達はこれで問題は無かろう。…はて、ところで何故俺はこの者達の修復をしているのだ?全く思い出せんのだが…?そもそも、ここは何処だ?俺は顎髭に手をやろうとして、顎髭が無いことに気が付いた。


 どういう事だ?何故顎鬚が無いのだ?俺は目の前の天使モルテを見つめる。まさか…この色々な意味で天使なのか何なのかよく分からないポンコツ天使が、いたずらに俺の顎鬚を剃ったのか…?


「暫くはお兄ちゃんの記憶に神の欠片の記憶が混ざって、混乱するかも…でも、大丈夫!死にはしないし、皆が付いてるし、それにほら…私達って複製体だから、万が一の事があってもオリジナルは平気だし!」


 何を言ってるのだ?天使モルテ………あれ?妹じゃないか…?俺は…俺はユウナだ。正確には複製体ユウナ3号だが…それはそうと、なぜ俺のトレードマークだった顎髭が無くなってるんだ?お気に入りの杖も無いじゃないか…いや、俺は杖なんか使ってなかったじゃないの?何を考えているのだろうか、俺は?


「天使モルテよ。いや、違う…モルテ、俺は…ユウナ、だよね…?」

「まぁ、お互い複製体なんだけど、お兄ちゃんは…何があっても、お兄ちゃんだよ」


 モルテが俺を抱きしめて、頭をナデナデしてきた。顎鬚が無い事がとにかく気になるのだが、今はこのナデナデの感覚を楽しむとしよう。

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