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49 どことなく女の子

「みゅうううっ!!ユウニャ様、是非おちからをっ!!おちからをお貸しくださいぃ~っ!!」


 俺が座っている席にプリンプリンが股を開いた状態でお盆に乗せられて運ばれてきたのを目の当たりにして、飲み物を噴き出しそうになってしまう。


「待って!いまプリンちゃんを運んできたボスコか、パイパイに頼めばいいんじゃないの!?」

「いや、それがな…俺の助けは力加減が良くないみゃあ!とか言われてしまうんだよ…。パイパイは今日、釣りに行ってる」


 なるほど、ジュース屋さんが休みだとは思ったが、釣りか…。パイパイのジュースの隠し味としてほんのり混入されている醤油によく似た調味料の原材料の事を思い出しながら、プリンプリンの股をオムツ越しにくいくい押した。


「ほおおっ…!!これです、これです~っ!ほおおっ、ほおおっ…この刺激がなければダメなんですみゃあぁ~っ………んふう…」


 軽快な排泄音と共にふくらんだオムツをいつもどおりに手早くササッと交換する俺だが、実は…俺ではないらしい。


 俺は、ユウナ3号。ユウナのコピー人間だ。


 本物のユウナは、コピーの俺とコピーのモルテを村に残して、外の世界の問題を解決している。色々考えた末の結論として、世界のあちこちに自分のコピーを残し、どこで何が起こっても大丈夫なようにしていくらしい。昨日、4号が作り出されたのを感じた。


 記憶などは同期可能で、誰が何処で何をしているのかなどは解るらしい。別の自分の行為が、まるで自分が行った事かのように思えてくる。


 命汁は本物の物を共有しているらしい。よくわからないのだが、命汁の容器を見てみると、そこには例の巨大な容器がある。前と全く変わらないのだが、これで共有されている状態なのだとか。


 2号の独立した状態とは別の形式だが、これはこれで便利なのではないだろうか?


 俺はこの村から離れずに村を守る役目を引き受けているが、普段は特に何も起こらない平和な村だ。俺はボスコのジュースを飲みながら、割と真面目に先日のような凶悪な攻撃から村を守る手段を考えていたのだが、そこに当然のように差し出されたのがプリンプリンである。


 オムツを替えた後は授乳の時間。げっぷをして寝っ転がったプリンプリンは、その赤ちゃん姿からは想像のつかない『おいしいこんちゅう』なんていう本を読んでいる…。


「はぁ…俺、本当にコピーなんでしょうかね?昔の記憶とか全部普通にあるし、何もかも俺自身なんですけど…」

「俺やあの僧侶と同じ匂いを感じるし、詳しくは判らんが複製体なのだろうな。俺と違って行動や思考の制限が全くかかってないから、余計にそういう風に感じるのかもしれん」

「あんまり深く考えずに普通に生活してて良いんでしょうかね?」

「一つだけ問題はあるな。複製体には身体を成長させる機能がない。100年経ってもお前はずっとその姿だ…それ以外は、なんにも問題ないんじゃねえの?」


 ママさんのおいしい食事を食べたり、パパさんとどぎつい修行をしたり、学校に行って先生に叱られたり、モルテと密着して遊んだり、パイパイの揺れる巨大乳房を観察したり、メポポの性癖から逃げ回ったり…俺の日常は前と変わらず進んでいく。


「でも、俺は俺じゃないんだよなあ…」


 日常は何も変化が無い。あれ程の破壊と殺戮に遭った村は、完全に修復され、犠牲者も蘇り、ほぼ以前と変わらない営みが続いている。ただ、やはり考えてしまうのだ。修復された村や復活した村人達は、果たして本物と言えるのだろうか?と。俺やモルテが本物にそっくりだけど偽物であるように、やはり偽物なのではないか?と。


 偽物の集団が、本物の真似をして、まるで生きているかのように動いているだけ…なのではないだろうか?


「お兄ちゃん、考えすぎなんじゃないの?」


 モルテだけどモルテじゃない複製モルテが、これまた依然と全く変わらない感じで接してくる。このかわいい顔も、ほわほわした声も、あれもこれも何もかもが、本物そっくりに作られた偽物なのだ。本物のモルテは今、本物の俺の隣で、何やら上機嫌で魔方陣を描いている…。


 何故か俺は、この現状を、どことなく気持ちが悪い…と感じてしまっていた。全ての選択は俺が選んだ道だ。俺というより俺の本物が選んだもので、その選択は正しかったと信じたい。しかし、何故なのだろうか、この気持ちの悪さは…。


「どうしたの?顔色良くないよ?」

「ちょっとね…最近、おなかの調子が良くないんだよなあ…」


 そうこうしていると、5号が誕生した事が伝わってくる。この世に俺がどんどん増えていく感覚を、何故これほどまでに気持ち悪く感じてしまうのだろうか?


 この奇妙な感情は、本物や他のコピー達に伝わっているのだろうか?


 家に帰った俺は、地下室の一角にこっそり作ってみた隠し部屋に入る。この隠し部屋に入ると、他の俺に現在の俺の状況が伝わらないように出来ている。今この瞬間、俺はトイレに入っているとか、寝転がっているとか、そういう嘘の情報が流れている筈だ。


 隠し部屋を作った際の俺の頭の中での描写まで全てが完璧に伝わっていたとしたら、この部屋の意味が無くなってしまうが…思春期の男子がこういう部屋を作ってしまう言い訳くらいは即興で思いつける。


 隠し部屋に鎮座していたのは、金属製の鎧だ。前世で色々と見かけた作品の中に登場する強化スーツのような物をイメージして作ってみた。要するにア〇アンマン的な物で、名前は偽アンマンだ。これを着る事で巨大バッタの時のように不意を突かれる事が無くなるのだ。


 イメージしたのは無敵の超戦士。偽アンマンを身に付けた俺は、命汁の力をフルに使えばどんな敵にでも勝ててしまう。そう、もしかしたら、本物の俺にだって勝ててしまうかもしれない…。


「ハハ、こんなものを内緒で作って、何がしたいんだ、俺…」


 偽アンマンに笑いかける俺の笑顔には、明るさが全く感じられなかった。


 その後、村では事件など何も起こらず、複製体である事などにもすっかり慣れて何とも思わなくなった俺やモルテの身体は、何の不具合も無く普通に成長した。


 なんか、ボスコの言う事って、はずれてばかりいないだろうか…?あのおじさん、自信満々に言うから信じてしまうのだけど…。


 急激に膨らんでいくモルテの乳房は分かりやすい成長だったが、俺の成長は陰毛が生えてきたくらいで、身長は伸びた物の以前とあまり変化が無い。髭も生えず、体毛も薄いまま。男らしさは股間にしか存在していない…。


「ユウくんは、ほんと、うちの家系の血を濃く引いちゃったのねぇ」


 ママさんが俺の髪を撫でながら言う。ママさんの家系は女ばかり産まれてくるらしく、男が生まれても背が低めで顔つきや体つきがどことなく女っぽい子に育つらしいとは聞いていた。しかし、自分がこうなってしまうとは…。今の俺ってメポポの目指している男の娘形態なんじゃないの?


 鏡の前で、ムン!と両腕に力こぶを作ってみるが、俺の細腕は本当に女子のようで、白い肌をぷるぷると震えさせているだけだった。


 その日、俺とモルテはパイパイのジュースの材料を採りに森に入り、ターザンごっこなどを繰り広げて楽しんだ後、果物や芋虫を採集してお店に向かった。


「あっ、ユウニャ、なんかお客さんが来てるんだけど…」


 着席しパイパイのジュースを夢中で飲んで、目ん玉をひん剥いている男。巨大な象が彫り込まれた剣を背負い、全身を黒いローブで覆っているが、顔面は剥き出しで、割と痩せている。


 男を見た瞬間、俺の脳裏に数年前の謎の男たちが思い出された。この奇妙な感じ、間違いなくあの男たちと同じ何かを感じる…。


 俺は脳内で偽アンマンスーツの着装命令を出す。空間を飛び越えて、俺の全身に瞬時に装着された偽アンマンスーツに命汁が流れ込み、目の前の男を何時でも粉微塵に出来る準備が整った。


 うおお!俺は無敵の偽アンマンだ!実はスーツを着装するのはこれが初めてだったので、妙にテンションが上がってしまう。


「お前は、誰だっ!?」

「え?…えええっ!?」


 ジュースに夢中だった男が俺の方を向いて、ビクッ!とした顔になる。


「お、お前こそ…誰なの?何だ、その恰好…?」


 そう、彼の目前に居るのは全身が金属ボディに包まれたア〇アンマンなのだ。誰だかわからないのは仕方がない。


「俺はユウナですが…」


 聞かれたので答えてやると、俺の身内たちが騒ぎ出した。


「お兄ちゃんなの!?何その恰好!?もしかしてバカになっちゃった!?」

「ユウニャ、訪ねてきてくれたお客さんに、その態度は無いにゃ…」

「おいおい、すごいな。なんだそれ?鎧にしては随分と奇天烈な見た目だが…」


 男は納得した顔になってジュースを机の上に置き、背中から鞘に入ったままの剣を取り外し、目の前に置いて俺に差し出しながら、話を始めた。


「俺は何者かに記憶を奪われて、自分の正確な名前を答えることが出来ない。その何者かに命令された事は覚えている…『新世界の神となり、手渡した武器に宿る神の力で全ての穢れた現生地上人を葬り去り、新たな世界を作れ…』と。俺と一緒に居たのは、巨大昆虫を操る男と、巨大竜巻を操る男だ。二人はやる気満々だったが、俺はその命令を聞くのが嫌で、隙を見て束縛の魔法を自力で解除して逃げ出したんだ」


 やはり、あの二人の関係者。しかし、この男は正気を保っているようだ。顔つきはあまり普通ではないが、目つきが普通の人っぽい。


「何に命令されていたのか、今でも良くわからない。俺には何故か、そこそこ魔法の力があるのだが、こんな剣を振るう事は出来ない。はっきり言って邪魔だったので、土に埋めようとしたんだ。そうしたら…突然脳内であの何者かの声が響くんだよ。『魔力を使い、深く深く埋めよ、巨大地震を巻き起こせ』って」


 男は顔を青くして、身震いする。


「その時発生した地震の震度は大したことのないレベルだし、山の中で範囲は狭かったのだが、恐ろしくなってすぐに掘り出したら地震が止まった。この剣は、埋めると地震を巻き起こす何らかの魔道具らしい」

「それで…一体何であなたは俺の所に?この剣をどうしろと?」


 俺があの二人をこの世から消滅させた事など、他者に知られようがない筈だ。だが、降参しにきたにしては様子がおかしい。男は意外そうな顔をして、答えてきた。


「あなたの所にではなく、あなたのお姉さんの所に来たんだ。剣の処分方法が思いつかず途方に暮れていたら、旅先で気が合った猫みたいな獣人に、この村に相当腕の立つ魔術師が住んでいると聞いて、相談に乗ってくれるのではないかと思ったんだ。まずはギルドで情報を集めようとしたら、この店に辿り着いたんだよ」


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