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誰もが最初、僕を見つめる目は好奇。
一つの枠である教室という小さな世界に突然異邦者が現れる。人々はその異邦者がいかに自分に関わるのか。害があるのか、ないのか。利益を生むのか、生まないのか…。そうして数時間にはすっかりそれを見極めて、その見極めた自分の見解が果たして正しいのかどうかを数週間で確かめる。
そして異邦者だった僕はすっかりこの小さな世界の歯車のひとつとなって、なんの変哲もなく背景へと溶け込んでゆく。
でも、それでもたった一人だけ、僕とコンタクトを取りたがる人間が…いた。
「ねえねえ奏汰、今日はどこか放課後…遊びに行かない?」
視線を遣ると、数人の少女の視線を絡みつかせて一見、普通で明るく、優しそうな少年が僕を見つめていた。名前は葉崎騎士。
彼はこのクラス、いや、この学校の羨望を独占する少年。僕にはとてもそうは思えない。けれども彼はこの世界のあらゆるものに何故だか愛されている。僕を除いては…。
「…用事…あるから」
「ははっ、またそれー?つまんないなー。もしかして…彼女とソレ?」
「………。」
「いいよ、ごめん、悪かったって。まだ学校に慣れてないだろうし…今度でいいよ」
それから先、僕はこの少年、葉崎の会話はするりと流れていくように耳に入らなかった。
最近結構かわいい子を見つけただとか、今度行くならあの店が美味しかったから行ってみよう…とかそんな特に足らない話。僕は相槌を打っていたのかどうだったか、分からないほどその声は届いていなかった。けれども彼が少し声音を落として顔を近づけた瞬間、あの瞬間だけ彼の声は驚くほど近く、大きく感じられた。
「ねえ奏汰。僕のこと…嫌いでしょ?」
僕は否定も肯定もしない。
なぜならばそのどちらでもないからだった。一言で表せばそう、
「あ、もしかして違う?だったらこうかな…」
「「興味がない」…そうだろう?」
鏡奏汰。そのたった一人である僕という人間を前に彼は興味を示している。
それはこのクラスのクラスメイトとは違った好奇の目。きっと僕なら、彼を嫌ってあげらるだろうから。彼が求めているのはたった一人、真実の愛を与えてくれそうな人物でも、最高の理解者である親友でもない。
自分を憎み、確実に愛さないであろうたった唯一の人物を求めている。
この、僕を…。
『あ、もしもし奏汰?今日は塾でしょう?帰り、気をつけてね。最近物騒だから』
「うん、分かってる姉さん。夕飯はいいよ、友達と食べてくる」
『そうなの?嬉しい、よかったわ、あなた早速お友達ができたのね。遅くならないように帰ってね』
「うん」
『あと…塾、サボっちゃだめよ。それじゃあね』ブツッ、ツーツー
携帯を閉じる音がやけに胸に響いた。姉さんは僕の嘘を全て見抜いていて、それを容認してくれていることを再び確認した。何故なら僕はこうして一人、月明かりが照らす公園に一人っきりだし、
塾の教材は最近コンビニのゴミ箱に捨ててしまった。でもやめた塾のお金はそれでも姉さんが毎月出してくれている。僕はそのお金に手をつけず、そのまま母さんの通帳だった口座に振り込み続けている。
大きなため息が出た。
葉崎は危険な男だと、目を合わせた瞬間分かった。(いや…本当は知っていたんだけれど)
けれどもこれは数年前…僕がした過ちの罪滅ぼしと過去からの脱却の為
しておかなくてはならないことだった。
葉崎とコンタクトを増やさなくては。
あの男があのことに気がついて僕を殺してしまおうとする、そう、その前に。
「塵は塵に。ゴミは…」
カン、と軽い音がして、僕が投げた缶は見事にゴミ箱に墜落した。
「ゴミ箱に…ね。」




