Ⅰ青年の感情欠如
Ⅰ 青年の感情欠如
その少年は誰からも等しく愛されるという類稀なる器があった。その形容は容姿ではなく、もちろん容姿も彼が愛されるに値するものがあっただろうが、彼はそれ以上に賢かった。そして天性の明るさが他者の貧しい心の拠り所になっていた。
そんな彼の明るさに惹かれた少女が蛾のように群れ、そしてぽつりとセオリーの言葉を彼に吐き出した。「好き」ですと。
「無理だよ」
僕は彼女が一瞬震えたのを見落とさなかった。彼女は確か僕と同じクラスメイトで名前は斉藤 芽衣。ありふれた肉体にぶらさがったありふれた顔。特に彼女たらしめる特徴があるわけでもない平凡な顔。そして、概製品のように何の思考も意図もなく無意味にプログラミングされた生き方をしてゆくその魂。この後、彼女がこの僕に振られて起こす行動はかなりの確立で当たる予言へと変えられると断言しよう。
つまり、つまらないんだ。
「どう…してか…もしよかったら教えてくれない?」
吐き気がした。
僕はそれでも笑顔をやめなかった。なぜかといえば僕は純正で、オートクチュールの存在だから。だから彼女がどんなに彼女のストーリーに僕を巻き込もうとしても、無理。彼女のストーリーは既に作られているモノだから。僕はそれに臨機応変にアドリブで演技をできる。僕は彼女の肩をぽん、と叩いた。
どうしてかはさっき言った通り、つまらないから。
概製品と特注品では釣り合わない。でもそんなことを言ったって、プログラミングしてあげなきゃ理解ができないんだ。そういう、生き物なんだ。
「じゃあ僕がてっとり早く、何故、君では僕の部品にはなれないことを教えてあげる。」
彼女は早くも首を傾げていた。当然だろうね、分からないんだから。
そして彼女が少しでもドキッとしてくれるようにそっとセミロングの髪を一房摘まんで耳を露出させる。そしてその耳に適切な一言を差し込んだ。
「僕は人間以外は愛せないよ?」
目を見開いた彼女は、どうしてだか僕の左頬を渾身の力で引っぱたいて向こうへ走り去っていった。だってそうでしょう?
僕に機械のような概製品は愛せない。
それでも、僕は愛された。全ての生き物に。全ての存在に。
でもいつしか、こんなにも簡単に何でも手に入って、全てに感覚が無いような、麻痺したような…そう、無味無臭。なんの刺激も無く、なんの努力も無い。誰を殺したって、誰を愛したって、誰をどうしたって…。誰も僕を嫌わない。誰も僕を叱らない。誰も僕を裁かない。
「転校生を紹介しよう、君、入ってきなさい」
けれどもそれは突然変わった。
「よろしく…お願いします」
あの日、あの瞬間に、君と出会ってから!




