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元トップランカーは真の仲間と共に一からやり直す~私を利用するだけのギルドはもういらない~  作者: あずーる


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第3話 寄り道だらけの初めての冒険

「ルナさん、見てください! ハニーボアちゃん、リンゴ食べてます!」

「うん、かわいいね。私もリンゴあげちゃおっかな~~。なーんてっ!」

「リンゴいっぱいありますから! ルナさんもどうぞどうぞ!」

「あ、ありがとう!」


 ひかりが取れたて(木から落ちたばっかり)のハニーアップルをこれでもかと私の両手に置いてくる。

 重い、重いよひかりちゃん。

 というか、これじゃあ手が塞がってリンゴあげられないんだけど!?


 ハニーアップルに釣られてハニーボアがのっそのっそと近づいてくる。


「あっ……くすぐったい、くすぐったい!」


 両手にどっさりハニーアップルを抱えているというのにハニーボアは私の腕をぺろぺろとなめてきている。

 美味いか? 私の腕がッ!?

 これでも元トップランカーだからね。腕には自信があるよ。


 腕に抱えたハニーアップルが無くなるころには私の腕はハニーボアのよだれでべたべたになっていた。

 いやー参ったね。

 横を見るとひかりが残ったハニーアップルをかき集めてカバンにしまっていた。

 その腕をハニーボアがつついている。


「ダメですよ! ハニーボアちゃん! これは明日の分です!」


 ひかりが手を交差させてバッテンのマークを作っている。

 ハニーボアはふごふごと鼻息を鳴らして果汁に濡れたひかりの手をなめとっていた。

 食いしん坊さんめ。


「あはは、ハニーボアちゃん、お鼻に土がついてますよー」

「ぶもっ、ぶもっ」


 ひかりはハニーボアの前にしゃがみ込み、その鼻先を撫で回してデレデレになっている。

 ハニーボアもまた、ひかりにすっかり懐いた様子で、嬉しそうに目を細めて「ぶもー」と甘えた声を漏らしていた。


 おいおいなんだいこの癒され空間はぁ! 甘すぎて糖尿病まっしぐらだよ!


「それでさ、ひかりちゃん、次は採取に行きたいんだけど……」

「あ、はいっ! すみません、私ったら嬉しくて……! 行きましょう、ルナさん!」


 ひかりは慌てて立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。ハニーボアもその足元を「ぶもぶも」と音を立てながらついてくる。


「あ……ルナさん! 見てくださいあそこ! なんだかカラフルな鳥さんがいます!」


 ひかりが指さす方向を見ると極彩色の羽を広げた鳥が、太陽の逆光の中、眩しく光り輝いていた。


「えーすっごい、レインボーピジョンだ。珍しい」

「わぁぁ、羽が光に反射して綺麗……っ!」


 ひかりは吸い寄せられるように道端の木立ちへと走っていってしまった。

 ひかりちゃん。もしかしてテイムする気なのかい!?

 浮気だよ! 浮気だよ、それはぁ! ハニーボアちゃんの気持ちを考えたことあるかい!?


「あ~~待ってくださーい! 逃げないでくださーい!!」


 上空へ飛び立っていくレインボーピジョンにひかりが手を伸ばして跳ねている。


 レインボーピジョンが空の彼方へ見えなくなったころ、ひかりが駆け足で戻ってきた。


「ルナさーん! 見てください!」


 彼女が手に持っていたのは極彩色の羽根だった。

 持ってるだけで幸運の数値が上昇するとんでもアイテム。

 レアすぎて持ってない上位勢が大半だ。

 私も持ってない側の人間だったからこそ分かる。

 喉から手が出るほど欲しい。


「すごい! きれいだね」

「また会えるかな~レインボーピジョンさん!」


 ひかりは極彩色の羽根を指先でくるくると回して光にかざしている。

 彼女はアイテムの効果なんて関係なしに喜んでいるんだろうな。

 効果だけ見ていた私が愚かだった。

 眩しいよ。眩しいよひかりちゃん。


 ◇


 目的地の東側の群生地に辿り着いた頃。


「ふふ~ん! この羽でハニーボアちゃんに首飾り作っちゃおうかな~~」


 何それ、私も欲しい。

 いかんいかん。沈まれ、沈まれ私の煩悩。

 頬をパンと叩いて首を横に振った。


「似合わないですかね? ハニーボアちゃんに」


 ひかりがうるうるした目で覗き込んできていた。

 違う。そうじゃないんだ!


「いやー採取場所忘れちゃってさ。ここらへんだと思ってたんだけど……」

「ニガクサでしたっけ!? 青色の」


 よかった。これで誤解は解けたかな。

 また一つ嘘を重ねてしまったけど。

 ごめんよひかりちゃん!


 ひかりが首をかしげていると、ハニーボアが草むらへ飛び出し、鼻先で草をがさごぞとかき分け始めた。


「どうしたですかー? ハニーボアちゃん」


 ひかりが後を追って茂みを押しのける。

 そこには青いエフェクトを放つ野草が。

 ひかりがそれを引き抜いて持ってくる。


「ルナさーん! これじゃないですか!?」


 彼女が持ってきたのは正真正銘のニガクサ。


「ニガクサだね! どこで見つけてきたの?」

「ハニーボアちゃんが見つけてくれたの!」

「すごい! 大活躍だね」

「まだまだいっぱいありますよ~!」


 ひかりが手を引いて茂みへと足を進める。

 そこには沢山のニガクサが所狭しと生えていた。


「これだけあればクエスト一瞬で終わっちゃうね」

「やった~~! 私たち三人で初クエストクリアですね!」


 三人か……

 ひかりちゃんらしいや。


「うん! そうだね。パパッと片付けてこのままグリーンスライム狩りに行こうか」

「グリーンスライム! どんな子か楽しみです!」


 今から倒しに行くモンスターだよひかりちゃん!?

 そんなこと言われちゃあ狩れないよっ!


 ひかりは元気に返事をして、ハニーボアと仲良くニガクサを集めている。


「ふがぁ!?」


 ハニーボアが素っ頓狂な鳴き声を上げて横転した。


「ほらぺっぺして、苦いよ~この葉っぱさん」


 ひかりがハニーボアのお腹をさすっていた。

 私もさわりたい。もちもちしてそう。


 いかんいかん。煩悩滅殺、煩悩滅殺。

 今はグリーンスライムを探さねば。


 グリーンスライムの生息地とニガクサの群生地が重なる場所をわざわざ選んだんだ。少し探せばいるはずなんだけど。


 いた。

 草むらからプルプルと揺れながら現れた緑色の粘液塊。レベル1のグリーンスライム。

 初心者にとっては物理攻撃が通りにくく、地味に時間がかかる面倒な相手だが、攻略ガチ勢の私に言わせれば単なるコアの露出を待つだけの的に過ぎない。


「スライム対処法その一! 蝶のように舞い~」


 スライムがぴょんと跳ねて体当たりをしてくる。

 それをひらりと避ける。


「スライム対処法その二! 蜂のように刺す!」


 地面に着地してべちゃりと潰れた所を狙ってランスで一突き。

 攻撃の後隙が大きいので動き回る核を狙いやすい。


 核を貫かれたグリーンスライムは、赤いダメージエフェクトと共に破裂した。


「すごい……っ! ルナさん、スライムさんを一突きで倒しちゃうなんて! スライムさんって、剣だと斬りにくくて大変だって掲示板に書いてあったのに!」


 ニガクサを抱えたひかりが、目をキラキラさせて拍手を送ってくる。


「ふふん、伊達にAFOをやり込んでないからね! スライムは核を突けば一発なのさ!」


 やり込んでるという割に今の装備はほぼ初心者だけどね。


「ルナさんって本当に物知りなんですね! なんだか、ゲームの先生みたいです!」

「えへへ、そうかな~!」


 さてと、残りの二匹もちゃちゃっと終わらせちゃいますかね。


「……あれ? ルナさん、見てください。あのスライムさん、ちょっと変ですよ?」


 ひかりが指差した先。

 群生地の奥、岩陰から一匹のグリーンスライムが現れた。


 ところがどっこい、そのスライムは他の個体のように私たちへ向かって突進してくる気配がない。

 プルプルと体を揺らしながら、足元に生えているニガクサの茎にしがみついている。


「ん……? ああ、グリーンスライムはたまにニガクサの成分を吸収してニガスライムに変異することがあるんだよね」

「見てくださいルナさん! すっごく苦そうな顔してます!」

「えっ?」


 苦そうな顔ねぇ? スライムに顔なんて……。


 気になってよく観察してみると、ニガクサを吸っているスライムの表面が心なしかキュッと歪み、紫色に変わり始めていた。そして、エキスを吸い終わると「ぷえぇ……」とでも言いたげに体をダラリと弛ませ、ニガクサからポロリと離れ落ちた。


「ふふっ、苦いなら無理して食べなきゃいいのに。なんだか健気でかわいいですね」


 ひかりはくすくすと笑い、ハニーボアと一緒にその様子を見守っている。


「……」

「ルナさん、あのスライムさん、そっとしておいてあげませんか? 苦しくて動けないみたいですし」

「あ、うん……そうだね。別の場所で狩ろうか」


 私はランスを引き、隣の草むらへ移動した。


「ふふっ、ルナさんって優しいですね!」

「そうかなー?」


 ひかりちゃんの方が絶対優しいって!

 モンスター相手に苦しんでるからそっとしておいてとか聖人か!?


 ◇


 グリーンスライムの討伐も終えて帰路についたころ。

 私たちは川辺でルリヤドカリの引っ越し風景を見守っていた。

 なんでかって? 私も分からない。


「あ、大きい貝殻にお引越し成功しましたよ! ルナさん!」

「お、おお……」


 パチパチと手を叩きながら、苦笑いしてしまった。


 一人でプレイしていたら、絶対にやらない時間だ。

 こんな背景の小動物を眺めていたって、経験値もゴールドも手に入らない。

 というか、ここまでこのゲームが作り込まれているとは知らなかった。

 運営さんお疲れ様です。


 これが、意外と見ていて楽しい。


 川面に反射する陽光。風に揺れる草木の音。

 隣で目を輝かせるひかりの横顔。


 こんな時間の使い方も悪くない。


 ◇


 夕暮れ時。

 朱色に染まる始まりの街の噴水広場で、私たちはクエストの報酬を受け取っていた。


 手に入ったのは、わずかな経験値と、初期の消費アイテム、そして数十ゴールド。

 三十分で終わるはずだったクエストに、二時間以上もかかってしまった。効率だけで言えば大失敗だ。


「ルナさん、今日は本当にありがとうございました! 私、こんなに楽しいゲーム初めてです!」


 ひかりは夕日を背に、ダブルピースで笑顔を浮かべた。

 足元ではハニーボアが「ぶもー」と満足そうに鼻を鳴らし、ひかりの足に擦り寄っている。


「私、ルナさんと一緒じゃなかったら、ハニーボアちゃんとも友達になれなかったし、スライムさんの可愛いところも知れませんでした!」

「うんうん。私も楽しかったよ!」


「ふふ、また……明日も一緒に冒険してくれますか?」


 ひかりが少し首をかしげて尋ねてくる。


「明日と言わずに今からでも行っちゃう?」

「えーっ! 学校に遅刻しちゃいます!」


「あら、頑張っておいでね」

「は~~い」


 ひかりが手を振りながら光の粒子になって消えていく。


 どうしよう。このまま私だけでクエスト進めてもいいけど

 ひかりを置いてけぼりにするわけにはいかないし。

 うん。私もログアウトしよう。


 画面が暗転してVRゴーグルのロックが外れる。

 チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。

 窓を開けると朝の涼しい空気が入り込んできた。


「さてと、ひかりちゃんを待ってる間、ルリヤドカリのトピックでも攻略サイトにまとめておこうかな」


 軽く背伸びをして、パソコンを立ち上げた。

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