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元トップランカーは真の仲間と共に一からやり直す~私を利用するだけのギルドはもういらない~  作者: あずーる


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第2話 初めての友達

「よしっ……! まずはステータスの確認だ!」


 視界の端に浮かんでいる歯車アイコンをタップすると目の前にぶわっと青白いパネルが出てくる。

 レベル1、所持金ゼロ、スキルもなーんもない。


「さてと、まずは何から手を付けようかな」


 パネルの隅っこにあるミニマップを拡大し、街中に配置されたNPCの頭上に浮かぶ記号を確認する。

 大半の初心者は最初に提示されるメインクエストにそのまま従って、街中を何度も往復させられて移動時間を浪費する。


 勿体ない。実に勿体ない。


 街の東門近くの薬草商人から先に依頼を受けておけば、西門の素材採取クエストと討伐対象の配置が綺麗に被る。ついでに南門の鍛冶屋の『鉄鉱石の納品』も受注しておけば、洞窟への二度足を省ける。


 長年AFOの攻略記事を書き続けてきたからね、私は。

 まさか自分の書いた初心者向けお役立ち情報に助けられるなんて思ってもみなかったけど。


「よぉし! そうと決まれば東門の薬草屋にレッツラゴーだ!」


 石畳の路地裏のひんやりとした空気、噴水が飛沫を上げる音、露店から漂う香辛料の香り。

 始まりの街の活気を横目で楽しみながら、通りを駆け抜けた。


 ◇


 必要なクエストを一通り受注し、私は街の外へと広がるさざなみ草原へ足を踏み入れた。


 緑の草波が風に揺れるフィールド。レベル1から5までの初心者向けモンスターが生息するエリアだ。

 少し歩いた先で、草むらがガサガサと揺れた。飛び出してきたのは、このエリアの代表格であるレベル2のホーンラビット。額に硬い角を生やした、体長五十センチくらいのウサギ型モンスターだ。


 だが、そのかわいい見た目に惑わされてはいけないッ!

 奴はプレイヤーを見るなり突撃してくるのだ。

 AFO始めたての初心者はここでウサギの洗礼(初デス)を受けることも珍しくない。


 噂をすればホーンラビットが長い耳をなびかせて、こちらへ一直線に突進してきているではないか。


「ホーンラビット対処法その一! ホーンラビットは急には止まれないッ!」


 ホーンラビットが突撃してくる直前に左へステップして回避する。

 早すぎてはダメだ。軸合わせをされて突撃されてしまう。

 やることはそれだけじゃない。


「ホーンラビット対処法その二! 避けたらすかさずカウンター!」


 かすめるほどの至近距離を、角が虚しく通り抜けていく。

 通り過ぎざま、ランスの穂先をホーンラビットの頭部へ薙ぎ払う。


 ガチコーンッ!


 鮮やかな赤いダメージエフェクトが弾け、ホーンラビットの身体が宙を舞った。


「ナイスホームラン!」


 そのまま地面にポトリと落ちたホーンラビットが淡い光の粒子を巻き上げている。


「さてさて~ドロップアイテムはなんじゃろな」


 転がっていたのは兎の毛皮と折れた角。

 レア素材の折れた角がドロップするとは幸先がいい。


 それに、アサシンランスの使い勝手もなかなか悪くない。

 本来ランスを扱う重戦士職と比べると少し筋力が物足りないかと思ったが、このフットワークの軽さはそれを加味してもお釣りが出るレベルだ。


 それからはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

 鳥ではなくて兎なんだけどね。


 ポップするやいなや突進してくるホーンラビットを、かわしては打ち、かわしては打ち。

 バッティングセンターに行ったことは一度もないけど、こんな感じなんだろうか。これはハマってしまうのも無理はない。


「さて、兎とばかり戯れているわけにもいかないし素材採取と行きますか」


 ホーンラビットのリポップが緩くなったところを見計らって、私は薬草採取ポイントを漁り始めた。

 ちゃんとホーンラビットを片付けておかないと薬草採取中にド突かれちゃうからね。


 草原の奥へと進んでいた、その時だった。


「ひやぁぁぁっ!? ま、待ってください、まだ準備がっ!」


 風に乗って、情けない悲鳴が聞こえてきた。

 声のした方角へ目を向けると、少し離れた木立ちの陰で一人の少女が尻餅をついていた。


 その目の前に迫っているのは、このエリアのレアポップモンスターのマッドボア。レベル5の暴走イノシシだ。

 このイノシシもまた、兎と同じくプレイヤーを見るなり突進してくる。

 ただ、兎とは比べ物にならないほど攻撃力が高い。

 どれくらいやばいかと言えば、突進を受けた木が根元から折れるくらいだ。


 あの距離感、すぐにでも突進してもおかしくないが、マッドボアは鼻をフガフガ言わせて足踏みしている。


 よく見ると、少女の手に黄色い果実が握りしめられている。

 あれはマッドボアの好物。ハニーアップルだ。

 ははーん。さてはテイムするつもりだな。


「これ! これあげますから! 怒らないでください……!」


 少女は強引にマッドボアの鼻先へハニーアップルを押し付けた。


 直後。

 ブルルという鼻息と共にマッドボアが少女から距離を取った。

 蹄を草原に打ち付けて威嚇している。

 まずい。あれは――。


 考えるより先に、足が地面を蹴っていた。


「危なーい!」


 マッドボアが地面を蹴り、少女へ向けて猛進を開始した。


 ボアの牙が少女に当たるより早く、私の腕が少女を掻っ攫う。

 腕の中の少女は半べそを掻いたまま、口をぽかんと開けていた。


 視界の先でマッドボアが急カーブをキメてこちらに向かってきているのが見えた。


 どうしたものか。

 このままランスで一突きすれば容易に倒せてしまう。

 だが、あのマッドボアは少女が見つけたレアモンスターだ。

 勝手に倒していい道理はないだろう。


「お嬢さん、立てるかい?」


 少女はコクリと頷いたがその肩は震えていた。

 その震える肩にそっと手を添えて上を指さした。


「跳ぶよ! せーの!」


 マッドボアの突進に合わせて、大きくジャンプした。


 ドシーンッ!


 ボアは曲がりきることができず、私たちの後ろにあった木の幹へ激突した。

 衝撃で木から大量のハニーアップルが落ちてきて、頭にぶつかってくる。


「痛いっ!」


 ダメージを受けるのはいつぶりだろうか。まさかモンスターからではなく、こんな環境ダメージに無傷の記録を破られるなんて……!


 頭を押さえつつ脇を見ると、マッドボアの頭上に星がくるくると回っていた。


「今だよ! 今! テイムできるから!」


 少女の手を引っ張ってマッドボアの方へ近づいた。


「えっ……あのえっと、どうすれば」

「ボアが目を回してるときに口にハニーアップルを近づけるの」


 少女が恐る恐るハニーアップルを近づけると、目を覚ましたマッドボアが少女の手をぺろぺろとなめ始めた。


「あっ……くすぐったいです!」


 さっきまで鼻息を荒げていたマッドボアが借りてきた猫のようにおとなしくなって、ハニーアップルを食べている。


 シャリシャリと心地良い音を立てて芯まで平らげてしまった。


「す、すごい!!」


 少女がパネルを見て両手を口に当てていた。

 やがて視線に気が付いたのか、トコトコと駆け寄ってきた。


「ほ、本当にテイム出来ちゃいました! お姉さん物知りなんですね!」


 ふふ、人呼んでAFOの歩く電子辞書とは私の事なのだよお嬢さん。

 まあそんなことを初対面の相手に言えるわけもなく。


「たまたま、知ってただけだよ! テイムできてよかったね!」


 少女は目をキラキラと輝かせながら、両手をガシッと掴んできた。


「ありがとうございます! 私、ひかりっていいます! あの、助けてもらっておいてこんなこと言うのも変なんですけど……お姉さん、何者なんですか!?」


 無邪気でまっすぐな視線。


「何者って……ただの通りすがりのプレイヤーだよ。あ、名前はルナよろしくね」

「ルナさん……! かっこいいです……!」


 元トップランカーだったことや、攻略サイトのライターをしていたことなど明かせるはずもなく、濁してしまった。

 ああ、純真な少女に嘘をつくなんて、私はなんて罪深いんだろう。


「それでひかりちゃん、さっきのマッドボア、名前はどうするの?」

「あ、はい! ハニーボアちゃんにしました! 甘いものが好きみたいだったので」


 ハニーボア、実はそういう名前のモンスターがAFOにはいるんだよ、ひかりちゃん。

 でも、わざわざ指摘するのも野暮か。


「いい名前だね。それにしてもマッドボアをテイムしようなんて物好きだねぇ」


「私、この世界でたくさんのモンスターと友達になりたくてテイマーを選んだんです! 現実だとアレルギーで動物に触れなくて……だからAFOのモンスターを見たとき、絶対みんなと仲良くなるんだ!って決めて」

「友達、か」


 テイマーと言えばモンスターを物のように扱うプレイヤーが多かった。

 けれど、目の前の少女はモンスターを友と呼び、対等に接しようとしている。

 この子なら……


「ねぇ……もしよかったらなんだけど。私とも友達にならない?」


 言っちゃった。言っちゃったよ。恥ずかしい。


「本当ですか!? なりましょう! 友達!」


 握りしめられた手から、ひかりの熱が伝わってくる。彼女はぴょんぴょんと嬉しそうに跳びはねていた。


 私、この子とならうまくやれそうな気がする。

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