第7話 佐々木モータースの教えと、財布の現実
楓はマニュアル本と携帯の写真を親父さんに見せていた。
「タイヤ交換と、伸びたチェーンの交換ね。……お前ら、よくそのボロい足回りでエンジンかける気になったな」
佐々木モータースの油まみれの親父さんは、僕たちが持ってきた古いマニュアル本をパラパラとめくりながら、呆れたような、しかしどこか面白そうな笑みを浮かべた。
春の乾いた風が吹き抜ける町外れの小さなガレージには、使い込まれた工具の匂いと、独特のオイルの香りが満ちている。
「だって、まずはエンジンがかかるか確かめたかったんです。で、次はやっぱりこのヒビ割れたタイヤと、ダルンダルンのチェーンをどうにかしないと公道を走れないって気づいて……」
僕が苦笑いしながら言うと、親父さんは「まあ、その順序自体は間違っちゃいないさ」と、無造作にカウンターの下から古びたカタログを引っ張り出してきた。
「いいか、今のバイクみたいにネットでポチッと新品が届くわけじゃねえんだ。この年代の原付のパーツは、型式を間違えると一生つかえねぇ。それに、お前らが放課後のバイトで稼いだ金から出すにしても、予算は限られてるだろ」
親父さんのその言葉に、僕と楓は思わず顔を見合わせた。
春から始めたスーパーでの品出しバイト。バイクのパーツ代や、いつか取りたい中型免許の資金を貯めるために、汗水流して稼いだ大切なお金だ。無駄遣いは絶対にできない。
「じゃあ、どうすればいいんですか……?」
楓が少し不安そうに尋ねると、親父さんはニヤリと片方の口角を上げた。
「在庫の山から使えそうな良品を探すか、ネットのオークションで互換品を探すかだ。……まあ、古いバイクを直すってのは、そういう足踏みも含めての楽しさだろ。倉庫の隅に転がってたタイヤやチェーンなら、まだ使えそうなのもあったはずだが……」
その言葉に、僕と楓は思わずピンと目を輝かせた。
「それって、僕たちのバイクに合う部品もありますかね……?」
「さあな。確認してみないとわからんが、今度店に来たときにでも見せてやるよ」
親父さんの含みのある笑みに背中を押されながら、僕たちはガレージをあとにした。
帰り道、夕日に照らされた自転車を押しながら、楓はまるで宝探しに行く前日のように嬉しそうに笑った。
「ねえ葵、今度あの在庫の山を見せてもらいに行こうよ!」
チャリ通の帰り道、ただ通り過ぎるだけだった町が、今はなんだか少しだけ広く、面白そうに見えていた。




