第6話 初めての鼓動と、次の約束
トトトトト……と、頼りなくも愛おしい排気音が、古びた古屋の空気を小気味よく震わせている。
僕のGS50と、楓のポッケ。
長年ただの鉄くずとして眠っていた二台のバイクは、僕たちの泥だらけの奮闘に応えるように、確かにその心臓を動かし始めていた。
「すごい……本当に動いたよ、葵!」
楓はヘルメットやグローブこそまだ持ってはいなかったが、自分のポッケのエンジン音を聞きながら、まるで子供のように目を輝かせていた。
その頬には、作業中についた黒いススがしっかりこびりついていて、お互いの顔を見合わせると自然と笑いがこみ上げてくる。
すぐにエンジンを止めると、古屋の中にはツンとしたオイルとガソリンの匂いが名残のように漂っていた。
「いやあ、正直最初はキャブを見ただけで絶望したけどさ……なんとかなるもんだな」
「でしょ? でも、浮かれてばかりもいられないよ」
楓は自分のポッケのサイドウォールに目をやった。ひび割れたタイヤ、そしてダルンダルンに伸びきったチェーン。
「エンジンがかかったのは最高だけどさ、この足回りのまま公道に出たら、間違いなく途中で転ぶか立ち往生するね」
「だな……。佐々木モータースの親父さんに、次はタイヤとチェーンの交換について教わりに行かないと」
一度エンジンに火が入ったことで、僕たちのモチベーションはこれまでにないほど高まっていた。
チャリ通の往復でただすり減らしていただけの退屈な日々が、この古屋を中心にして、急速に鮮やかな色を帯びていくのを感じる。
窓の外では、春の夕暮れが遠くの山々を淡い茜色に染め始めていた。
まだ整備すべき山のような課題を抱えながらも、僕たちは手についたオイルを拭い、明日からの新しい作戦に胸を躍らせていた。
アスファルトの上をこの相棒と走り抜ける日は、もうすぐそこまで近づいている。




